はじめに

月半ばには3万4000ドルを超える水準まで戻ったNYダウ平均ですが、その後、急落して先週末には3万ドルの節目を割り込み年初来安値を更新しました。

ジャクソンホール会議でのパウエル議長のタカ派姿勢や、予想を上回る米国消費者物価の上昇、FOMC(連邦公開市場委員会)で示されたFF(フェデラル・ファンド)金利の将来予想など、市場はサプライズに次ぐサプライズで、波乱の展開になってきたように見えます。しかし、これは市場に「ショック」が走って、リスクオフになっているわけではありません。

ジャクソンホールも、CPI(消費者物価指数)も、FOMCも、たしかにいずれもサプライジングな内容で、その意味では衝撃的でしたが、市場はそれに反応しているわけではないと思います。米国株は下がるべくして下がっているだけです。いわば、淡々と売られているのです。そこにはショックも不安の反映もありません。その証拠に市場の不安を示すVIX指数は未だ30に達していません(ようやくその手前まで上がってきましたが)。


では、なぜ米国株は下げているのでしょうか? FRB(連邦準備理事会)の利上げ、それによる景気後退懸念、云々いわれるが本当のところはわかりません。学校の試験問題とは違って「答え」がどこかに書いてあるわけではないからです。筆者の答えは「金利上昇に沿って粛々とプライシングされているだけ」というものです。

端的にいって、長期金利が上がったから株が下がった、の一言に尽きます。

たとえばFOMC当日、NYダウ平均は乱高下しましたが、それはほとんど金利の動きを反映したものでした。発表直後、ダウは急落しましたが売り一巡後、下げ渋って一時プラス圏に浮上しました。背景は長期金利が急低下したからです。ただ金利の低下も3.5%でピタッと止まると改めて株が売り直される展開となりました。

年初からの動きを見るともっと明確です。きれいに逆相関になっています。いまの米国株はほぼ金利の動きだけで説明できるのです。

なぜかというと、株価を決める重要な2つの要素のうちのひとつである企業業績がまったく伸びていないからです。株価は理論的には将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものの総和と定義されます。通常、キャッシュフローは企業の予想利益、たとえば1年先の予想EPS(1株当たりの利益)などを代理指標に使ったりします。割り引く分母には長期金利にリスクプレミアムを上乗せした割引率を使います。

【理論株価の式】

式から分かるように、分子のEPSが伸びていれば、分母の金利が上がっても株価は上がります。たとえば好景気で金利も上昇するが業績も、もっと伸びるような局面では金利高と株高が併存します。しかし、今のような景気の減速局面では業績は伸びません。8月以降、S&P500のEPSはずっと横ばいになっています。

だから、株価はほとんど金利だけで決まってしまうというわけなのです。

さて、米国株はどこまで下げるでしょう。この式に当てはめればS&P500で3500を割るところくらいまで下げて適正値になります。長期金利3.8%なら3485です。ダウに換算するとあと1600ドルはまだ下げ余地があります。ダウは28000ドル割れまで売られてフェアバリューということです。それも長期金利が3.8%なら、という前提です。長期金利がさらに4%を超えて上昇すれば、ダウの底値はもっと下になるでしょう。

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