はじめに
日本の賃金が上がらない理由
では、どうすれば賃金をあげることができるのでしょうか?
賃金の決定要因はさまざまであり、何かひとつで日本の低賃金が説明できるというものではありませんが、主要因として労働生産性の低迷と日本の労働市場が上手く機能していないことがあげられます。
賃上げは経営判断であり、その基本は労働生産性と経済見通しです。生産性を上げるためには、付加価値を増やすと同時に、経済の新陳代謝を高めて経済を成長させる必要があります。
そこで重要になるのが、流動的な労働市場です。
2022年11月の「新しい資本主義実現会議」で、岸田首相が2023年の6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめる方針を示しましたが、この方向は正しいと考えます。労働市場が流動的な経済では生産性が高くなることや、賃金成長率が高くなることはデータからも示されています。
また、労働市場の流動化は、労働者個人にとってもメリットをもたらすと考えられます。よく、労働市場が流動化すると、解雇が容易になり、雇用が不安定になると懸念されますが、むしろ逆です。個人がそれぞれの事情や価値観にしたがい、最適なキャリアを実現するためには、労働者に雇用機会を多く与える流動的な労働市場の方が望ましいのです。
さらに言えば、好むと好まざるとにかかわらず、日本で働き方や雇用のあり方は変わらざるをえない状況です。それは、「雇用は生産の派生需要」だからです。雇用は生産活動があってはじめて生み出される−−つまり、経済や社会の構造が変わり、生産活動が影響を受ければ、雇用、働き方、さらには労働市場のあり方は変わらざるをえなくなります。
日本経済は、人口構造の変化、人工知能・自動化などのテクノロジーの進歩、さらに地球温暖化対策のためのグリーン化というメガトレンドの変化に直面しています。メガトレンドが変化する中、個人がライフスタイルに合わせて最適なキャリアを実現するためには、働き方や雇用のあり方は柔軟でなくてはなりません。
しかしながら、日本の労働市場は硬直的で、柔軟な働き方が難しいのが現状です。そのため、労働市場の流動化を進める大胆な改革が必要となります。
特に重要なのが、労働成果に応じた賃金体系を構築することです。日本企業で一般的な年功序列型の賃金体系では、労働者の生産性と賃金が一致しないという課題があります。若者は生産性が高くてもそれに見合う賃金を受けることが出来ず、また、勤続年数が長くなると、賃金に見合うほどには生産性が上がらなくなるため、企業は高齢者を雇うインセンティブを持ちにくくなります。
一方、労働成果に見合う賃金体系ならば、企業は年齢にかかわらず労働者を雇うインセンティブを持ち、結果として全ての世代が雇用機会に恵まれることになります。また、こうした報酬システムのもとでは、テレワークなどの新しい働き方も活用しやすくなると考えられます。
大企業の一部では、賃金制度や年金制度の見直しが進んでいます。2023年はこうした動きを加速化し、優秀な若者、女性、高齢者、外国人労働者が働きやすいように、人材登用や適材配置の大改革を進めるべきである、と筆者は考えます。