はじめに
首都圏の新築マンション販売が失速しています。2017年度上半期(4~9月)の供給戸数は前年同期と比べて3.6%の減少。契約率も「好不調の目安」とされる70%を下回りました。資材価格や職人の人件費が上昇し、1戸当たりの販売価格が高騰したことが原因です。
では、今のマンション市場は「買い」ではないのでしょうか。必ずしも、そうではありません。値引きしてもらいやすいマンションのタイプや、購入後も資産価値が落ちにくいエリアは存在します。今の市場環境で「狙い目」はどんな物件なのでしょうか。
価格高騰で販売戸数が失速
不動産経済研究所がまとめた、2017年4~9月の首都圏新築マンション市場動向。供給戸数は1万6,133戸と、前年の同じ時期と比べて3.6%の減少となりました。契約率も68.6%と、「好不調の目安」とされる70%を下回る水準でした。
販売ペースを鈍らせている主因は、販売価格の上昇です。1戸当たりの平均販売価格は5,993万円と、前年同期から5.9%上昇しています。1平方メートル当たりの単価も87.5万円と、8.2%増えている格好です。
なぜ売れ行きに支障を来たすほど、販売価格が上昇しているのでしょうか。不動産調査会社・東京カンテイの井出武・上席主任研究員は、こう解説します。
「2013年から2015年にかけて、販売価格は3割ほど上がりました。為替が円安に傾いたことなどから資材コストが上昇したほか、東京五輪に向けた再開発ラッシュで熟練工が不足したため、というのが主な理由です」
ただ、2015年の秋頃から価格が高くなりすぎ、まず投資家層が想定していたリターンが見込めなくなり、市場から去っていきました。実際にその物件に住む予定の実需層も、第1期の販売で関心を示してくれたお客さんを刈り取ってしまうと、その後は思うように集客できない状況だといいます。
分譲戸建てとの価格差が拡大
分譲戸建てとの価格差が拡大していることも、マンション販売不振の原因の1つとみられます。地域の工務店やパワービルダーが販売している分譲戸建ては、世田谷、杉並、大田、練馬などの区ではマンションとの価格差が1000万円ほど低い水準で、販売戸数ではマンションよりも戸建てのほうが多くなっているそうです。
マンションであればキッズルームを併設するなど付加価値を付けて販売価格を上げられますが、30代のファミリー層向けの分譲戸建てには必要最低限の設備しか付けられません。また、工務店などの販売業者は数戸単位の分譲地を売却して得た資金を元手に、次の分譲地を開発しているため、1戸でも売れないと次に移れないという制約もあります。
こうした事情から、コストが上昇しても販売価格を上げることが難しく、分譲戸建ての価格はマンションほど上昇していません。結果、分譲戸建ての値頃感が高まる一方、マンションはますます売れなくなり、供給そのものが減少しているというわけです。
魅力のあるエリアは値崩れしない
では、今は新築マンションを買ってはいけないタイミングなのでしょうか。「必ずしも、そうではない」と、東京カンテイの井出さんは言います。
住宅ローンの金利を見ると、日本銀行の金融緩和政策の影響もあり、歴史的な低水準で推移しています。2020年の東京五輪が終われば首都圏の地価は下落すると見る向きもありますが、井出さんは「本当に魅力のあるエリアは資産価値が下がらない」と指摘します。重要なのは、買ってもいいエリアを見極められるか、です。
東京都区部のマンション平均価格は2017年上半期も7,160万円と、前年の同じ時期に比べて4.2%上昇しています。にもかかわらず、供給戸数は7,910戸と、前年同期から15.9%も増えています。特に、「3A地区」と呼ばれる赤坂、青山、麻布や、広尾、番町などは人気が高く、市況に関係なく絶対に「買い」となります。
ただし、このエリアの物件に手を出せるファミリー層は限られています。一般的なファミリー層が購入できて、値崩れの心配が少ないエリアはどこなのでしょうか。