はじめに

「退職金をいちばんお得に受け取るには、どのようにすればいいですか?」という質問をされる人が多いです。

どうも、その質問の内容は、「1円でも損をしたくないので、もっとも有利な方法を教えてください」ということなのです。その気持ちはとてもよくわかります。私も1円でも損をしたくありません。でもいつも、この質問を受けるときに、違和感を覚えるのです。

というのも、退職金を受け取った後の使い方で失敗して、大きな損をしていることが多いからです。どんなに受け取るときに得をしても、使い方で損をしているようでは、元も子もありません。逆に大きなマイナスになっていることに気付いていないこともあるのです。

じつは、もっとも得な退職金の受け取り方は、「退職金の使い道に合った受け取り方をする」のが正解なのです。今回は、退職金の使い方から考えた、受け取り方について解説をしましょう。


一時金で受けるのがもっとも得なのだが…?

一般的には、もっとも得する退職金の受け取り方は、「一時金」で受け取る方法です。なぜならば、「退職所得控除」が使えるので、税金の優遇がもっとも大きくなります。「退職所得控除」でオーバーした分については、「年金」での受け取りがいいでしょう。「年金」で受け取ると「公的年金等控除」が使えますので、税金が優遇されます。

年金で受け取るメリットは、その期間も運用しているので受け取り金額が増えます。デメリットとしては「公的年金等控除」が使えるものの、オーバーした分は雑所得として課税されます。また所得が多くなるので、社会保険料も増えてしまい、結果的に手取り額は減ります。

ここまでが、受け取り方だけを考えた場合の方法です。しかし、手取りがいちばん増える方法が正解かというと、そうではありません。

モーガン・ハウセルが書いた『サイコロジー・オブ・マネー』の中には、次のような文があります。

「お金について判断をするとき、数学的な計算だけにとらわれてはいけない」という事実は見落とされがちだ。

では、「数学的な計算」がなぜ正解ではないのかを説明していきます。

一時金の落とし穴は「人の心」?

一時金で受け取ることには大きな落とし穴があります。それは「人の心」です。私も含め、まとまったお金が入ると、気が大きくなり金銭感覚がいつもと違ってきます。いままで我慢していたものを欲しくなったり、美味しいものを食べに行ったりしてしまいます。それ自体は悪いことではないのですが、気がついたら無駄遣いをしてしまっていたという結果になりがちです。

退職金は、余裕資金ではありません。老後の大切な資金なのです。定年後は、大きな収入が見込みにくいので、一度減らしてしまうと、取り返すことが厳しくなるのです。

一時金で受け取ったという何人かに話を伺ったことがあります。その使い方をたずねてみると「アレッ何に使ったのか、よく覚えていない……。」という人が多かったのです。

こういう例もあります。現役時代は、なかなか長期の休みが取れなかったので、思い切って世界1周クルーズを計画した人もいます。費用は1人300万円ぐらい、夫婦だと600万円程度かかります。退職金が1500万円だとしたら、3分の1を使うことになります。残りは900万円です。とてもいい思い出になったと思いますが、老後資金がグッと減って老後生活が心許なくなります。

このように、一時金で受け取ると計画的な使い方ができない可能性があります。

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