はじめに
アメリカでは相次ぐ地銀の破綻で、金融不安が燻っています。一方で、マイクロソフトやメタなど、ハイテク企業の決算が思ったほど悪くないことや、雇用や消費に関する指数が良好なこともあり、アメリカ経済が後退するの? しないの? どちらかはっきり断言できない状況が続いています。
とはいえ今後、銀行の融資に関する締め付けが厳しくなれば、企業の設備投資が鈍ったり、個人消費が落ち込んだりと、実体経済にも確実に悪影響があります。もちろんアメリカ経済の落ち込みは、日本にとって対岸の火事では済まされません。日本経済への影響も避けられないことを思えば、積極的に株を買う気にはならないはずです。
ところが、2023年に入ってびっくりするほど右肩上がりの業界があります。昨年、2022年は「原材料高」「円安」「人件費高騰」の三重苦に痛めつけられた食品業界です。
食品株指数のチャートをご覧ください。
画像:TradingViewより
まるで竜が天に昇っているかのような、見事な上昇っぷり。食品といえば、わたしたちにもっとも身近な業界ですが、それゆえにスター株になることはあまりありません。ところが今年、2023年は何かが違う印象を受けます。
値上げしてもマイナス影響を吸収できず
2022年の食品企業の決算短信には、悲痛な叫びがあちらこちらから漏れていました。
たとえばカルビー株式会社(2229)の2023年3月期第2四半期決算短信には、加速するコストインフレに対応した価格改定により増収したものの、食油や輸入ばれいしょ、包材等の原材料価格や動力費の高騰によるマイナスを吸収できず、営業利益が減益してしまったとあります。さらに円安の進行による為替差損が発生し、経常利益も減益です。まさに踏んだり蹴ったりで、売っても売っても儲からないといった状況でした。
画像:カルビー「2023年3月期第2四半期決算短信」より引用
おなじくカゴメ株式会社(2811)の2022年12月期第2四半期決算にも、エネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱、円安の進行により事業環境が大きく変化し、売上収益は伸びたものの、減益となったむねが記載されています。
画像:カゴメ「2022年12月期 第2四半期決算短信[IFRS]」より引用
食品業界に属す企業はすべてこんな感じで、かなり辛い1年だったことでしょう。
日本のデフレマインドに変化の兆し
日本では、長く物価が上がらないデフレーションが続いたため、値上げに対する耐性がないといわれていました。2017年10月に鳥貴族(3193)が全品280円均一から298円へ、28年ぶりに価格を引き上げたところ客数が一気に低下し、売上が落ちてしまったことがあります。たった20円弱の値上げすら許せなかったわたしたち日本人が、ここにきて値上げに対する寛容さを身につけてきたように感じます。
そもそも、わたしたちが値上げに関して頑なに拒み続けた理由は、賃金が上がらないから。収入が変わらないのに、値上げによって支出が増えれば、可処分所得が減ります。そうなるとどうしても節約せざるを得ませんので、お財布のヒモが固くなり、モノが売れなくなるため、企業は値下げを余儀なくされてしまいます。
ところが、ここのところ賃金引き上げのニュースがあちらこちらで聞かれます。「2023春季生活闘争 第4回回答集計結果」では、2023年の平均賃上げ率が3.69%と30年ぶりの高さとなっており、厚生労働省の春闘賃上げ率は1994年(3.13%)以来の3%台となることがほぼ確実。前年(2.20%)からの改善幅は1%を超え、1980年以降では最大の上げ幅となりそうです。
給料が上がるなら、多少の値上げは許容できる−−そういった流れが、食品株の追い風になっているのでしょう。