はじめに
導入の目的は「税の取りこぼし」を解消するため
有野:え、もっと以前からって、明治維新からや! 坂本龍馬が「インボイスの夜明けぜよ!」って言ってましたね。
小島:だとしたら、坂本龍馬は先見の明がありすぎますね(笑) そこまでは遡りませんが、消費税が始まった頃、正確には消費税法が成立した1988年です。
有野:そんな昔なんや。1980年代後半といえば、バンドブーム! 友達がみんなバンド組んでて、みんな「メジャーになるで!」って言うてたなぁ。「有野と濱口は芸人で、俺らはバンドで東京行くで! そんで『夜のヒットスタジオ』で会おうや!」って言うてた同級生は早々にバンド辞めて、今はみんな会社立ち上げて社長になってましたよ。「え! お前も社長なん?」って、僕はまだ課長止まりで、課長って言うても部下は居ない。はぁ、偉くなりたい……すみません、話がそれました。会社からインボイスをやれやれってせっつかれていて、なんとなく拒否反応を示してもうてるんです(笑)
小島:確かにわかりづらい制度なので、そういう方は少なくないと思います(笑) 1988年に消費税導入が決まった時、すでにインボイス制度を導入する話は出ていたんです。そもそもインボイスは「適格請求書」のことで、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるものです。
小島:消費税は、海外の税制をそっくりそのまま導入したものなのですが、当時は消費税の導入自体に反対の声が多く、「1回1回の取引ごとに消費税の計算をしないといけないなんて、大手企業ならともかく、中小事業者は対応できない!」と言われていました。
有野:そりゃ、反対しますよ。最初の消費税は3%でしたよね? 3%だとどうしても金額に端数が出るやろうし、計算がめちゃくちゃ面倒で、駄菓子屋さんが大変やったなぁ。10円で買えてた駄菓子が、消費税ついて買えなくなる。店のおっちゃんは「子どもからは取られへんで」って、値段据え置きにしてくれてる店もあったなぁ。それでも「遠足のおやつは300円まで」のまんまやったもんな。
小島:おっしゃる通りです。消費税を導入して、さらにインボイス制度まで始めると、税金の計算でパニックが起きてしまいます。だから「消費税はやるけど、インボイスはやりません」となったわけです。ただ、詳しくは次回説明しますが、消費税を導入した際に事業者によっては消費税の課税対象とならない条件を定めました。そのため、課税事業者と免税事業者の取り引きの際、消費税額に差が生まれ、「税の取りこぼし」が発生していました。その取りこぼしを防ぐため、政府は何としてもインボイスを導入したいと思っていたんです。
有野:「税の取りこぼし」かぁ、そりゃ必死になるわな。でも、何でいまやり出したんですか?
小島:軽減税率が導入されたことで、請求書を見ても8%と10%、どちらの税率が適用されたのかわかりづらく、税額も計算しづらい。だから、きちんと税率と消費税額が明記された、適切な請求書が必要となり、インボイス=適格請求書の制度をやろうとなったわけです。
有野:最初は大変やろうし、いっぺんにやったら余計にややこしくなるから、いままで後回しにしてた、ってことですか。そう言われると仕方ないってなりそうやけど、そもそも消費税を導入してちょこちょこ上げて、8%と10%で分たりして、さらにややこしくしたのは政府でしょ。
小島:そうですね。インボイスの申請期限は当初、2023年の3月末までとなっていたのですが、混乱が起きてしまったので、9月末までに延期されました。このような混乱が起きるのは政府も前もってわかっていたはずですから、もっと事前に中小事業者に準備をうながしたり、導入に向けた支援制度を用意したりするなど、やり方はあったと思います。