はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は深野康彦氏がお答えします。
企業年金を年金として受け取るか、一時金として一括で受け取るかどうかを迷っています。私見ですが、以下に両者のメリット・デメリットをまとめてみました。
年金として受け取るメリット
・年3%で運用してくれる
・生涯受け取ることができる
年金として受け取るデメリット
・所得税・住民税が高くなる
・国民健康保険料が高くなる
・介護保険使用料が1割から2割に増えるかもしれない
(収入がある限度額を越えた場合)
一時金として受け取るメリット
・所得税はかからない(控除範囲内に収まる)
一時金として受け取るデメリット
・運用を3%で生涯できるか不安(たぶん自分にはできない)
どちらを選択したらよいでしょうか? また、なにを基準に判断すればよいのでしょうか? お手数ですが教えていただければ幸いです。
(60代 既婚・子供なし 男性)
深野: 企業年金の受け取り方に関するご質問ありがとうございます。
一括で受け取るか、年金として受け取るのどうかかで悩まれていることが、ご質問からひしひしと伝わってきます。ご質問に記載されているように、年金・一時金いずれを選択してもそれぞれにメリット、デメリットがあります。
年金、一時金いずれの場合も、いくら受け取るのか記載がありませんので、回答に推測が入ることをお含みおきください。
おすすめは「一括受け取り」
結論からいうと、一括で受け取った方がベターと思われます。たしかに年金方式で受け取った場合に、年3%で運用してくれるのは大変魅力的といえます。
しかし、所得税、住民税のほか、国民健康保険料や介護保険料の負担が高くなるうえ、介護保険の利用料が2割負担に増える可能性、さらに国民健康保険の窓口負担も3割になる恐れがあります。
これらの負担は一生涯続いていくことから、たとえ%で運用してくれても、医療費などの負担が増えれば割に合わない可能性もありえます。
本当に運用益は必要か?
また、ご質問者が考えられているリタイアメントプランでは、本当に資産運用で3%の運用益を確保し続ける必要があるのかについても、やや疑問が残ります。
一括で受け取った場合、国民健康保険料、介護保険料の負担が増えることはなく、また医療費や介護保険を使った場合も最低限の自己負担で済むことから、日々の生活のランニングコストは抑えられるはずです。
3%の運用益を放棄することは、過去数年の運用環境を考えるともったいないと思われるかもしれませんが、その運用益が本当に必要なのかをもう一度検討してみてください。
運用益は目的があって定めるものであって、運用益によってライフスタイルが変わってしまうのは、お金に振り回されていることになるのです。
“取り崩す”行為に感じる抵抗
また、一括で受け取った場合にご自身で運用されると3%の利回りを確保できないことを懸念されています。しかし、金融資産をどの時期にいくら取り崩すか判断できることは、利回りの確保よりも大きな判断要因となりえます。
仮に年金方式で受け取った場合、決まったお金を定期的に受け取ることができますが、自分自身で取り崩す時期や金額を選ぶことはできません。
反面、一括方式では自分のペースに応じて、今月は多めに取り崩す、来月は少なめに取り崩すという判断が可能となります。このように使う予定に合わせて予算を変更できることは、大きなメリットとなります。
一方、一括で受け取った場合には、限りある資産を自分自身で判断し、取り崩すことになります。この取り崩すという行為に抵抗や不安を感じる方は、ことのほか、たくさんいらっしゃいます。
もし、取り崩す、言い方を変えると引き出すことに抵抗がなければ、一括の方がベターと思われます。しかし、資産が減っていくことに不安を覚えられるようでしたら、年金で受け取ることも検討に値するでしょう。
あるいは半分を一括で、半分を年金方式で受け取ることが認められている場合もあります。半々方式などのミックス受け取りプランが可能かを勤務先に問い合わせてみてもよいかもしれません。