はじめに

日本は長年にわたって「金利」がありませんでした。1990年代に入ってから景気が悪化し、さらに物価が持続的に下落するデフレ経済に、長年の間、苦しめられたからです。それがここに来て、ようやく金利が顕在化してきました。今回から何回にわたって続けられるか分かりませんが、金利の基本について考えていきたいと思います。


借手にとっては「コスト」、貸手にとっては「運用収益」

金融市場には債券市場、株式市場、外国為替市場などに加え、それぞれから派生したデリバティブ市場があり…、といった説明を聞くと、金融市場が極めて複雑怪奇なものに思えてきます。

でも、非常に大雑把に言ってしまえば、金融市場とは、お金を借りたい人と貸したい人との間で、お金を融通し合う場所、のことです。

お金を借りるといっても、ただで貸してくれるはずがありません。お金の借手は貸手に対して、何らかの対価を支払う必要があります。この対価が「金利」です。つまり金利は、お金の借手にとっては「コスト」であり、貸手にとっては「運用収益」になります。

金利は変動します。詳細は回を追っていくなかで説明していきますが、簡単に言うと、世の中でお金を借りたいという意欲が高まると金利は上昇し、逆にお金を借りたいという意欲が後退すると金利は低下します。金利は常に、お金に対する需給バランスの変化によって、上昇・低下を繰り返すのです。

金利が動く理由

では、どうして今まで金利が大幅に低下していたのでしょうか。自分たちにとって身近な経済活動を考えてみて下さい。

まず個人の消費はどうでしょうか。将来不安から消費を活発に行わず、節約して貯蓄に回す人は少なくないと思います。

企業も同じです。特にリーマンショック以降、企業は資金調達難に直面した結果、人への投資、設備への投資をできるだけ減らし、手元に現金を抱え込むようになりました。

これらの行動はすべてお金に対する需要後退につながります。お金に対する需要が旺盛な時は、少しくらい高い金利でも良いからお金を借りたいという借主が多くなるため、徐々に金利は上昇します。

それとは逆に、お金に対する需要が無い、あるいは非常に低い時、お金を貸す側は「もう少し金利を下げれば借りたい人が出てくるのではないか」という希望的観測のもとに、「もっと低い金利でもお金を貸しますよ」などと言ってきます。その結果、徐々に金利は下がっていくのです。

日銀の役割

以上は、金融市場において資金の調達・運用を行う人の間の需給の話です。ここで言う「資金の調達・運用を行う人」とは、銀行や証券会社などの金融機関、金融機関以外の法人、個人、自治体、政府、外国人、といった幅広い市場参加者を指すのですが、これに加えてもうひとつ、金融市場には重要なプレイヤーがいます。

それは中央銀行です。日本の金融市場であれば、日本銀行が金融市場に参加して、金利形成に大きな影響を及ぼしています。

日銀の役割をご存じでしょうか。日銀券、つまりお札の発行を行うのはもちろんですが、そのお札の価値を守ることも、日銀に課せられた重要な役割です。

お金の価値は物価変動の影響を受けます。物価が上昇すると、相対的にお金の価値は下がりますし、物価が下落すると、お金の価値は上がります。当然、日銀としては「円」の価値を下げたくないので、物価が上昇する、つまりインフレが急速に進む場面では利上げを行い、物価の上昇を抑えようとします。

なぜ利上げを行うと物価上昇を抑えられるのかというと、消費意欲や設備投資意欲が後退するからです。つまりモノに対する需要が後退し、その結果、物価の沈静化につながるのです。

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