はじめに
60歳時点での選択肢
厚生年金加入者として継続して働く場合、iDeCoにも加入して節税メリットを享受しながら残り5年で老後資金作りのラストスパートをすることは、もれなくお勧めしたい方法です。しかし、60歳まで運用した企業型DCをどうするかは個別の状況によりアドバイスが変わっていきます。
まず、企業型DCの資金をiDeCoに移換するのかどうかについてお伝えします。定年以外での退職の場合、退職後6ヶ月以内に企業型DCの資金をiDeCoなり次の会社の企業型DCに移換しなければなりません。もしその期間が過ぎると国民年金基金へ自動移換されてしまい、面倒なことになるということはずいぶん周知されてきたことかと思います。
しかし定年の場合は、「引き出す」「そのまま運用を継続する」「iDeCoへ移換する」の3択となります。
まずiDeCoに移換するという選択肢は、よっぽど企業型DCの残高が少ないか、定期預金などの元本確保型で運用をしていて、移換時の売却リスクがない場合以外は選ぶ必要がないと考えます。特に運用が好調な場合、移換のために資産を売却することで運用の継続性が途切れる、また資金移動のためにタイムロスがあるという点は、好ましくありません。
従って、企業型DCの資金は、「退職所得控除を使って引き出す」か、定年退職の場合は「そのまま会社の企業型DCの制度の中で運用を継続する」ことが可能なので2択と考えます。
定年時に企業型DCの資金を引き出した方が良いケースは、確定拠出年金以外に退職一時金等があり、そこで生じる退職所得控除に余裕がある場合です。
例えば、定年までの勤続年数が38年、退職一時金が1,500万円、企業型DCの残高が560万円という場合、退職所得控除が2,060万円使えます。退職所得控除は勤続年数20年までは1年あたり40万円、それを超えると1年あたり70万円で計算され、退職一時金の受取りと同年に企業型DCを引き出すと、合算したところにこの控除額が適用されます。
従って、退職一時金1,500万円と企業型DCの560万円を合計すると2,060万円となり、これは退職所得控除2,060万円以内なので全額非課税で受け取れるということになります。もし退職一時金が退職所得控除と同額あるいはそれ以上の場合、企業型DCを合算して受け取るとその超過分が課税対象となってしまいます。
その場合、企業型DCの残高を分割で受取り、60歳からの公的年金等控除を活用するということも考えられます。しかし65歳未満の公的年金等控除は年金額60万円まで非課税となりますから560万円を5年で分割するとやはり控除額を上回り、その超過分は課税対象となります。
もし非課税での受取りを優先するのであれば、65歳からの公的年金を繰り下げて、公的年金等控除内で確定拠出年金を受け取るということも考えられます。
あるいは、そのまま運用を継続し、iDeCoに併用加入するということも選択肢です。この際新たに5年間iDeCoに加入するとその加入期間に応じた退職所得控除「200万円」が使えるようになります。
定年時に560万円だった企業型DCの資金が運用により600万円に増えたとしましょう。またiDeCoは月々23,000円3%程度で運用をして5年間で150万円になったとしましょう。ここで企業型DCとiDeCoを一緒に引き出すと、退職所得控除200万円が利用できます。ここでは、合計750万円のうち200万円のみを一括受取りすることにします。この金額であれば退職所得控除以内ですから、課税はありません。
次に残りの550万円を5年の年金として受け取ります。65歳以降の公的年金等控除は年間110万円までは非課税で受取りが可能です。そこで公的年金を70歳までの繰下げ、確定拠出年金年間110万円で公的年金等控除の枠を使うことも考えられます。