はじめに
日経新聞によれば、2023年1~9月の上場企業のTOB(株式公開買い付け)は49件となり同期間で14年ぶりの多さとなったとのことです。前回の記事内にも記した通り、東京証券取引所(以下東証)による市場区分の見直しにより、上場企業へのTOBの件数が増えています。
TOBには二種類ある
TOBとは、Takeover Bidの略で、不特定多数の株主から一括で株式を買い集めることです。証券取引所を通した通常の市場売買ではなく、あらかじめ「買付期間」「買付価格」「買付予定株数」が公表され、取引所外で株式を買い付けます。 TOBは主に企業の買収や子会社化、経営の実権を握ったりする目的で実施されます。TOBには“友好的TOB”と“敵対的TOB”があります。
友好的TOBは、買収される企業の経営陣から同意を得た上で行うTOBです。例えば、グループ企業の完全子会社化は友好的TOBに当たります。一方、敵対的TOBは、対象の企業やその企業の大株主の同意を得ずに仕掛けるTOBです。ライバル企業が経営を握ることを目的に行ったり、“アクティビスト”が支配権を獲得する段階まで株式を取得することを目指します。
もの言う株主“アクティビスト”
アクティビストとはいわゆる「物言う株主」として、権利を積極的に行使して、企業に影響力を及ぼそうとする投資家を指します。アクティビストの形も様々あり、経営陣との対話や交渉を経て穏便に要求へと導くタイプと、真っ向から敵対的な形を仕掛けていくタイプが存在します。現在は対話や交渉を重ねるタイプが多く見られます。アクティビストは企業にとってあまり触れられたくない、または表沙汰にしたくない部分に対し厳しい目を光らせてくるので、目障りな存在というイメージがありますが、対話や交渉を通じて企業経営を正したり、企業にとってプラスとなる気づきを与えるなど、有益な側面も多くあります。
企業の株主対応支援などを手掛けるアイ・アールジャパンHDによると、2014年に8社だったアクティビストファンドは年々増え、2022年には68社、2023年には70社にまで増えました。国内アクティビストのみならず、近年は欧米系やアジア系も参入してきています。また2023年のアクティビストによる株主提案件数は69件と過去最多を記録しました。株主提案とは、株主総会で議案を提案することで、議決権の100分の1以上、または300個以上の議決権を6カ月前から所有する株主が権利を持ちます(株主提案権)。2017年までは年間10件に満たない件数でしたので、この数字からもアクティビストの活発な活動が窺え、今後もTOB件数が増加傾向であると予想できます。
持株比率と行使できる権利
持ち株比率と行使できる権利については株式の100% を保有すると全ての意思決定が可能(完全子会社化)となります。また3分の2以上の保有で株主総会の特別決議を単独で可決(会社の合併・解散、定款の変更、事業譲渡など、会社経営に関する重要な事柄を単独で可決できるようになる)、2分の1超の保有で株主総会の普通決議を単独で可決(取締役の選解任、自己株式の取得、余剰金の配当など、会社の意思決定を行うことができる)、3分の1超の保有で特別決議を単独で阻止することができます。