はじめに
遅れてきた新興国ブーム
さて、それから10年ほど遅れ、新興国ブームが起こりました。
今では中国も先進国入りをしていますが、2000年ぐらいまではまったく違う状況でした。現在、北京や上海の道路を埋め尽くすのは自動車ですが、90年代、市民の大半は自転車で移動していたものです。
そこから中国経済は急成長。中国人が大挙して日本を訪れたり、日本だけでなくアジア諸国にも頻繁に出かけたりするようになりました。それに少し遅れ、ベトナムやインドネシアといった近隣諸国でも同様の経済発展が始まります。そして、航空需要が急増するのです。
それなら、新しいパイロットを採用すればいいじゃないかという話なのですが、残念ながらパイロットの育成には時間がかかります。入社から訓練期間が4年、20代後半でようやく副操縦士になりますが、機長になるためはさらに10年以上かかります。
つまり、先見の明を持ち、中国経済が伸び始めた頃にパイロットを採用した航空会社で、ようやく今、新しく機長に昇格できる人材が育つ。それほどに時間が必要なのです。
生き延びるために決行された大量リストラ
航空業界には、2030年問題と言われる大きな悩みごとがあります。
この時期、大量の機長が退職する予定にも関わらず、後釜となる副機長が十分に養成されていないのです。現在、パイロットは少子高齢化型のいびつな年齢構成になっています。
この理由は、リストラです。911テロ、リーマン・ショック……、その度、企業として生き延びるために航空会社は大量のリストラを行いました。需要が下がり、便数を減らしたので、地上職の社員だけでなくもちろん給料の高い乗員もリストラ対象です。
その際に、機長を温存しながら、即戦力ではなかった副機長を大量リストラしてしまったのです。
そして、今になって2030年問題がクローズアップされているのですが、今から採用を始めても微妙に間に合わない。
そして機長を育成したとしても、問題が勃発する頃には資金に余裕がある航空会社に引き抜かれてしまい、先行投資をした会社が割を食うことにもなりかねません。
現実に、日本の航空会社は「外国人パイロットの確保を強化して、この問題を乗り切る」と言っているのですが、海外の航空会社から見れば、これは先行投資をしたがゆえに損したことになってしまうわけです。
業界全体で起きるパイロット不足――解決のためには世界的な取り組みが必要となりますが、さて、どう乗り越えていくのでしょうか。