はじめに
日銀は2024年3月19日、マイナス金利政策を含む大規模緩和の解除を決定し、17年ぶりの利上げに踏み切りました。これを受けた市場は、株高・円安で反応しました。「利上げなのに株高・円安?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。通常であれば、利上げは株価にはマイナス材料、為替相場では円高要因と見られているからです。これにはいくつかの理由があります。
マイナス金利解除は、実質的には「利上げ」ではない
ひとつは相場特有の反応です。それは「Buy on rumor, sell on fact (噂で買って事実で売る)」というものです。相場は事実が明らかになる前の段階では思惑や観測などで大きく動いたとしても、事実が明らかになってしまえば「材料出尽くし」で手仕舞いが優勢となり、むしろそれまでとは反対方向の動きとなることが多いのです。今回のケースでは日銀のマイナス金利解除を巡る思惑で、事前に株安・円高に振れる場面があったため、実際に日銀会合の内容が明らかになれば、その反対方向の動きが出たのです。
もうひとつの理由は、マイナス金利解除は表面的には「利上げ」ですが、実質的には「利上げ」ではないからです。マイナス0.1%の政策金利を0~0.1%に変更というのは、実質的な変化はほとんどありません。植田総裁自身、今回の政策変更を受けて「預金金利や貸出金利が大幅に上昇するとはみていない」との認識を表明しています。YCC(イールドカーブ・コントロール)の撤廃やETF(上場投資信託)の買い入れ終了も、事実上すでに形骸化していたものですから、これらをやめても市場への影響はありません。今回の政策変更は、もはや異常な政策をしないでもよくなったということのアピールであり、正常化へ向けた一歩というポジティブなサインを示したということの意味合いのほうが大きいでしょう。
そして、市場が株高・円安で反応した、もっともわかりやすい理由は、日銀がこの先の利上げに慎重なスタンスを表明したからです。植田総裁は同日の記者会見で「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と述べ、追加の利上げを急がない考えを示唆したのです。
市場の一部には年内の追加利上げ観測がくすぶります。7月、あるいは10月にもう一度、利上げがあるのでは?という見方が出ています。実際に、政策金利の動向を反映すると言われる2年債の利回りは0.2%程度。そうすると、日本の政策金利が0.2%まで上昇することを織り込んでいるとも思われます。そうだとしても、たかだか0.2%です。