はじめに

これからどのような働き方を望みますか?

Aさんに、なぜ会社員から独立して、個人事業主として働きたいのかを伺いました。
「今の会社は規模が小さく、社長の意向が会社に大きな影響を与えます。会社の方針に振り回されることなく、もっと自由に仕事がしたいです。長年、コーチングを学んできたので、コーチとしての独立を考えるようになりました」とのこと。Aさんのように、会社の方針や働く場所・時間に縛られない自由な働き方を求めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

個人事業主として事業を始めるには、事前の準備が必要です。無計画に始めてしまったがために、生活が成り立たなくなっては元も子もありません。独立に向けてどのようなステップを踏めばいいのかを解説します。

いくら稼げばいい? 必要な売上のボーダーラインを知る

独立後も〈収入-支出=黒字〉という方程式を成立させることが、今の暮らしを維持するためには必要です。ただし、個人事業主の場合、売上=収入とはなりません。売上から経費や税金・社会保険料などを引いたものが、自分で自由に使えるお金、いわゆる「手取り収入」になります。必要な手取り収入を得るために、どれだけの売上が必要になるのかをAさんの事例で確認してみましょう。

①支出の把握
必要な売上を知るために、まずは最低限の支出を把握しましょう。支出とは家計に必要な費用(住居費、食費、光熱費、医療費、保険料、娯楽費等)のことです。Aさんの家計では、独立後は現在の支出からコーチング費用を除いた約270万円を年間の支出額と仮定しました。実際には独立してもさらなる学びの費用がかかることも想定されるので、シミュレーション時に支出を絞りすぎないようにするのもポイントです。

②必要な売上を試算する
手取り収入が270万円あれば、今の暮らしを維持できることはわかりました。では、270万円の手取り収入を得るには、どれだけの売上が必要になるのでしょうか。
かかる経費は事業によって様々です。仮に、経費が売上の20%かかると想定します。年間売上が300万円だと、60万円が経費となり、240万円が手元に残ります。そこから社会保険料や税金を差し引くと、手取り収入は年間約170万円となります。Aさんの年間支出額は270万円のため、約100万円が不足します。年間売上が500万円の場合、100万円が経費で400万円が残ります。社会保険料と税金を差し引くと、手取り収入は年間約280万円となるため10万円の黒字となります。

Aさんが独立して、生計を維持していくために必要な年間売上は500万円がボーダーラインといえます。ただし、経費については変動が大きいため、最低限必要な手取り収入を確保できるように常に意識して売上目標を設定しましょう。

このように必要な支出から、売り上げ目標を試算してみると将来のお金の見通しが立ちやすいのでキャリアチェンジの前にはぜひお試しください。

独立前に万一の備えを準備しておく

個人事業主は会社員よりも収入が不安定になる場合があります。また、急な病気やケガのリスクもあります。個人事業主には傷病手当がなく、病気やケガで働けなくなったときの保障が会社員より手薄になってしまいます。万一の場合に備えて、会社員以上に貯蓄(生活防衛費)が必要です。個人事業主に必要な生活防衛費は、一般的には生活費の1年から2年と言われています。Aさんの場合、約300万円~550万円となります。現状の収支であれば、39歳までに約500万円の貯蓄が可能となり、生活防衛費については独立前に必要額をクリアできそうです。

また、病気やケガで長期間働けないことによる収入減をカバーしてくれる就業不能保険を活用するのも一つです。詳しい保障内容は各保険会社によって異なりますが、貯蓄の取崩しを減らす効果があります。

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