はじめに

NISAの制度変更が行われてから、オールカントリー人気が高まる一方、直販をメインとする投資信託会社は苦戦を強いられています。その原因は、NISAの非課税枠が1800万円までに拡大されたからです。


苦戦する直販投資信託会社

どうして非課税枠が拡大されたことによって、直販投資信託会社が苦戦を強いられているのでしょうか。

一時、直販投資信託会社は、「販売金融機関の営業戦略に左右されず、自分たちの運用哲学に賛同してくれる、ロイヤリティーの高い顧客のみに自社運用ファンドを販売することによって解約が最小限に抑えられ、リターンの向上につながる」として注目を集めました。

直販をメインとする投資信託会社は、専門の投資領域で強みを発揮するブティック型を標榜していたこともあり、運用しているファンドの本数は1本、ないしは2本程度しかありません。

そのため、直販の窓口でNISA口座を開いてしまうと、口座を開設した投資信託会社のファンドでしか非課税運用ができなくなってしまいます。これは、NISA口座が1人1金融機関に限定されているからです。

しかし、NISAの制度変更で非課税枠が1800万円まで拡大され、投資信託で資産形成を考えている人の中には、複数の投資信託に資金を分散して運用したいと考えるようになったのでしょう。直販でしかファンドを購入できない投資信託会社から、多数のファンドを扱っているネット証券会社に口座を移す動きが広まりました。それが直販メインの投資信託会社の苦戦につながっています。

安易に複数ファンドを保有しても正しい分散にはならない

では、複数のファンドに分けることによって、どのような効果が期待できるのでしょうか。

もちろん、正しく分散できるのであれば、一定の分散投資効果が期待できるかも知れません。しかし、いたずらにファンドの本数を増やしても、正しい分散投資にはつながらないことを理解する必要があります。

昨今、流行っているオールカントリーとS&P500。どっちを買えば良いのかで迷っている人もいるでしょう。「だったら両方買ってしまえ」と考える人もいると思います。では、オールカントリーとS&P500の両方に均等金額で投資した場合、どうなるでしょうか。

代表例として「eMAXIS Slim」のオールカントリーとS&P500を挙げて考えてみたいと思います。他にも類似のファンドはありますが、基本的にすべてインデックスファンドなので、大差はありません。

オールカントリーの組入比率を国別でみると、5月末時点で米国が61.6%、日本が5.3%、イギリスが3.5%、フランスが2.7%、カナダが2.6%となっていて、これが国別組入比率上位5カ国になります。

そしてS&P500は米国の株価インデックスなので、実質的に100%、米国株式で運用されています。

では、それぞれに1万円ずつ投資したとします。投資金額は2万円です。このうち、米国株式の保有比率が何パーセントになるのかを計算すると、オールカントリーは61.6%ですから、1万円のうち6160円が米国株に投資していることになります。そして、S&P500は1万円全額が米国株に投資していることになります。合計すると1万6160円が米国株投資です。それが2万円のうち何パーセントになるのかを計算すると、80.8%になります。

つまり資産の8割を米国株で運用していることになるのです。ここまで来ると国際分散投資というよりも、米国集中投資になります。

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