はじめに
「老齢年金の公式」を理解することも大切
このように年収の壁は「手取り」といった目の前の損得で語られることが多いのですが、お客様のライフプラン相談を長年お受けしているファイナンシャルプランナーとしては、もうひとつの大切な事柄として老齢年金の公式を理解することもお勧めしたいと思っています。
まず国民年金部分の公式は、2万円x加入年数(40年が上限)です。これは簡易的な計算式ですが、充分ポイントは伝わるでしょう。つまり、国民年金は20歳から60歳まで40年加入して年金額約80万円程度が上限であるということです。
いわゆる専業主婦(夫)などの第3号被保険者は国民年金保険料が免除となっています。国民年金保険料を単独で支払うと約月17,000円もの保険料負担が発生します。仮に第3号被保険者期間が30年だとすれば、600万円以上もの保険料を支払わずに年金が受けられるのですから、この経済的メリットは相当大きいといえるでしょう。
しかし、国民年金には上限が設定されていて、満額受け取れたとしても80万円です。相対的貧困の基準は年収127万円(2018年 国民生活基礎調査)ですからそこから見ても単独の収入としては、貧困ラインを下回ります。つまりこれは、厚生年金で働く配偶者ありきの制度設計であり昭和的家庭モデル、男性は外で働き女性が家庭を守る、が前提とされているということは理解しておいた方が良いでしょう。
では厚生年金はどうでしょう? こちらは平均年収x5.481/1000x厚生年金加入年収(70歳が上限)が公式です。平均年収とは、厚生年金に加入中の年収(給与と賞与)の平均値です。
公式を眺めると、5.481/1000というのは国が定めた係数ですから、将来の年金額を増やすためには、平均年収を上げる、そして厚生年金加入年数を増やすことが有効であることがわかります。
平均年収は、働いている期間の積み重ねです。年功序列の時代は終わったといわれますが、一般的には長く働くことによりスキルが磨かれ、それが収入に結びつくと考えられます。もしAさんが老後の自分の年金を増やし豊かに過ごしたいと思うのであれば、年収の壁を乗り越え、ご自身の働く能力を存分に発揮し働くことが重要であることがわかります。
もちろん年収の壁を超えて働くと、手元に残るお金も増えていきますから、その中からiDeCoやNISAといった資産形成をするにも、お金の回りが良くなることが期待できます。