はじめに
2024年11月の選挙で、ドナルド・トランプ氏が二期ぶりに復職を果たしました。トランプ氏の方針や政策は前職時の政策や、今回の大統領選挙の活動中に打ち出した政策を合わせることで、大まかに判明しています。それらを見ると、わかるのはトランプ氏の政策にはドル高・円安を推し進めるものが多いこと。ここでは、トランプ氏の主要政策を背景としたドル高・円安シナリオについて考えます。
■米議会のねじれが解消したことで無双状態に突入?
米国の大統領は、選挙翌年の1月20日に議会議事堂前で開かれる就任式にて合衆国大統領に就任することを宣誓し、正式に大統領となります。そこで行われる就任演説によって、トランプ氏の方針が明らかになるでしょう。トランプ氏にとって大統領2期目となる今回、1期目と決定的に違う点は、大統領職と上下両院の3つを同一政党が過半数勢力を占める「トライフェクタ」の状態であることです。1期目では、2018年の中間選挙で、下院では民主党が過半数を獲得。上院では共和党が過半数を得ていたものの、中間選挙後は上院と下院で過半数政党が違う「ねじれ」状態に突入しました。
1990年以降、米大統領はブッシュシニア、クリントン、ブッシュジュニア、オバマ、トランプ、バイデンと移り変わってきました。このうちトライフェクタの状態だったのは、クリントン政権1期目、ブッシュジュニア2〜3期目、オバマ政権1期目とトランプ政権1期目です(上院が50対50の時は除く)。ただ、双方とも中間選挙で勢力図が変わり、議会にねじれが生じています。今回の選挙の結果、上院はトランプ氏属する共和党53議席・民主党47議席、下院は共和党220議席・民主党215議席(欠員3議席)となり、いずれも共和党が過半数を獲得しました(2年後の中間選挙で再びねじれが発生する可能性はあります)。これが、1期目とは異なった政策の推進力を生み出すでしょう。要は、ここから2年間はトランプ大統領の“無双状態”といえます。
■保護主義政策でインフレ圧力が増大
トランプ氏が掲げる主要政策の中には、「保護貿易」「移民抑制」「大型減税」など米国内のインフレにつながるものが目立ちます。これらの政策に寄ってインフレ圧力が高まれば、長期金利の上昇や政策金利の引き上げ(利上げ)につながるため、ドル高・円安方向に進みやすいといえるでしょう。
まず、「保護貿易」について。トランプ氏が1期目の時に中国の為替操作や、補助金を使った中国国内企業の優遇策を批判し、追加関税の措置を講じてきたことは広く知られています。当然、それは今職でも引き継がれるでしょう。実際、貿易相手国に対して10%~20%、中国に対しては60%程度の追加関税を行うと公約に掲げています。11月26日、トランプ氏は「就任式の直後に、中国政府が合成オピオイド(麻薬性鎮痛剤)の一種であるフェンタニルの密輸を食い止めるまで、中国製品に10%の追加関税を課す」と発言しましたが、これはほんの手始めといったところでしょう。
2023年は、米国の対中国輸入が前年比20.3%減と大幅に縮小し、その結果、米国の貿易赤字額は大幅に縮小しましたが、対中国の貿易赤字が継続的に減らないようなら、追加の関税引き上げ策に打って出るでしょう。トランプ氏は、中国以外の国・地域に対しても関税引き上げ、要は保護貿易政策を強化する方針です。これによって米国内の輸入品の価格が上がるため、インフレ圧力が強まります。
また、保護主義政策によって、民間企業はサプライチェーン(原材料や部品の調達から製造、流通、販売までの一連の供給網)を再構築する必要がある(たとえば、中国から仕入れていた原材料や部品を、別の国の企業から仕入れるようにするなど)ので、これも「製造コスト上昇→インフレ」の要因です。