はじめに

■移民抑制策は明確なインフレ要因

続いて、移民抑制策について見てみましょう。トランプ氏は前職時に、中南米からの不法移民を抑制するため、メキシコ国境に壁を作るための大統領令に署名しました。実際、トランプ氏の前職時代には新型コロナのパンデミックの影響もあり、移民数は急減。次のバイデン政権では、バイデン大統領が就任初日に「もう1フィートも壁は作らない」と表明し、壁の建設中止を声高らかに宣言しました(移民数が急増したため、バイデン氏は慌てて2023年に壁の建設再開を表明)。トランプ氏は今回の大統領選挙でも「必要に応じて州兵や軍を動員して強制送還に着手する」と発言するなど、強い口調で移民抑制策を主張しています。これによって、移民数は再び大きく減少する可能性が高いでしょう。移民数が減少すれば、米国内では人手不足が加速し、インフレ圧力が強まることになりそうです。

米FRB(米連邦準備制度理事会)は、自国の経済をソフトランディングさせるため、いまのところ政策金利の引き下げに対して慎重な構えを見せています。仮に、国内でインフレ圧力が急激に高まれば、利下げどころか利上げすら考えざるを得なくなるでしょう。利上げは、日米金利差の拡大につながり、円安・ドル高の要因となります

大型減税について、トランプ氏は前職時に行った個人所得税の減税(トランプ減税)の恒久化と、法人税率を21%から15%に引き下げることを公約として掲げています。この減税が実行された場合、2025年から2035年までの10年間で、米国の財政赤字は7.5兆ドル(約1125兆円)まで膨れ上がると試算されています。財政赤字の拡大は長期金利の上昇につながるため、ドル安・円高の流れを生みやすいでしょう。

■「円キャリートレード」再燃で円安が加速?

実はもう1つ、円安の要因として挙げられるのが「円キャリートレード」の復活です。円キャリートレードとは、金利の低い日本円で資金を調達し、その資金を米ドルに換えてリスク資産などに投資を行う取引のこと。この円キャリートレードは日銀の超低金利政策を背景に膨張し、長期的な円安・ドル高相場の要因になってきました。

2024年7月末の金融政策決定会合で、日銀は同年3月に続く追加の利上げを実施しました。この追加利上げを契機に円キャリートレードが急速に巻き戻され、8月5日の相場暴落、いわゆる「令和のブラックマンデー」につながったとの見方があります。「巻き戻し」とは、それまでの取引とは反対の売買のことです。この場合、「円を売った資金でドルを買う」取引の反対売買なので、「ドルを売って円を買い戻す」動きです。

「令和のブラックマンデー」によって、同トレードの大部分は解消されましたが、その後、「日銀が継続的な利上げに打って出ない可能性」と、「米FRBの利下げに対する慎重姿勢」が重なり、市場では円キャリートレードが復活する可能性が高まりつつあるようです。この先、同トレードが再度増え続けるかはわかりませんが、2024年9月以降の円安局面は、円キャリートレードの再燃が要因との見方もあります。

トランプ氏の主要政策と、この「円キャリートレードの再燃」によって、少なくとも米国で次の中間選挙が行われる2026年までは、円安・ドル高傾向が続く可能性があります。バイデン政権は米国内のインフレを抑えられなかったことで評価を下げました。もし、トランプ氏がインフレを抑制できなければ、バイデン政権と同じ道筋をたどることになるでしょう。この場合、中間選挙に向けて方針転換を迫られるかもしれません。

また、トランプ氏の政策によって米国内のインフレが加速し、それによって「米国経済の落ち込みでドル安(円高)が進行する」というシナリオも念頭に置いておくべきです。為替相場を気にするなら、①トランプ氏がインフレ加速を抑制できるか、②中間選挙後も「トライフェクタ」状態を維持できるか、をチェックしておく必要があるでしょう。

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