はじめに
退職金とiDeCoの老齢給付を同時に受け取ったらどうなる?
では、この退職所得控除の知識を踏まえてiDeCoを考えてみましょう。iDeCoの場合、加入期間を勤続年数と読み替えるので、20年加入すると退職所得控除が800万円(20年x40万円)となり、30年加入すると退職所得控除が1500万円(800万円+10年x70万円)となります。ここで覚えていただきたいのが、退職所得控除を計算する際、240ヶ月は20年とカウントしますが241ヶ月は21年とカウントする点です。つまり、より多くの金額を非課税で受け取りたいと思うのであれば、早くはじめ、長く続けて加入期間を延ばすことが重要なのです。
では、60歳の定年時に退職金とiDeCoの老齢給付を受け取ったらどのような計算になるのでしょうか?まず一つ目のルールとして、同じ年(1月から12月)に複数の退職金を受ける場合は合算することになっています。
例えばiDeCoを10年間積立したとしましょう。掛金月23,000円で運用利回り4%で60歳時点での資産は340万円です。60歳で退職金2000万円とiDeCo340万円の合計2340万円が「退職金の合計」です。
では、退職所得控除はいくらでしょうか? 会社は勤続年数38年ですから退職所得控除は2080万円、iDeCoの加入期間は10年ですから退職所得控除は400万円(10年x40年)です。
退職金は両方の金額を合算したので、退職所得控除も合算されるのではと思いがちですが、税金の計算では勤続期間あるいは加入期間の重複している期間については片方の退職所得控除はなかったものとするというルールになるので、このケースではiDeCoの加入期間10年は勤続年数38年に吸収され退職所得控除は2080万円となります。
会社の退職金とiDeCoの合計額は2340万円ですから、退職所得控除2080万円を280万円上回ります。この金額は2分の1され分離課税されるので、所得税は7万円、住民税は14万円、合計21万円です。つまり手元に残るお金は2319万円となります。
5年ルールが10年ルールに
では、会社の定年が65歳だとどうなるのでしょうか? ここからが5年ルールのお話です。5年というのは、複数の退職金を受け取る場合、先に受け取った退職金と次に受け取る退職金の期間が5年未満であれば、重複期間についてはその控除がないものとして扱われます。つまり同年で受け取る場合と同じ扱いです。しかし5年以上間隔があくと重複期間の減額がなくなり、それぞれの退職所得控除が認められるのです。
差が分りやすいように勤続年数は38年のまま、会社の定年が65歳となり退職金2000万円を受け取る例で考えます。iDeCoは60歳で受け取ります。iDeCoの受け取りと退職金の受け取りは5年空きますので重複期間が消失されることなく、それぞれの退職所得控除が適用されます。
つまり60歳時点でiDeCoの340万円を受け取る際は、退職所得控除が400万円なので税金は0円です。65歳時点で2000万円の退職金を受け取る際は、退職所得控除が2080万円なのでやはり税金は0円です。結果5年ルールを使うことができると、21万円もの節税ができるのです。
しかし今回の改正でこの5年ルールが「10年ルール」になったことで、iDeCoの受け取りから10年以上間隔をあけないと重複期間とみなされ400万円の退職所得控除が認められなくなってしまいます。実際には65歳で退職金2000万円を受け取る際の2060万円の退職所得控除が、60歳でiDeCoを受け取る際にiDeCoの老齢給付の340万円分だけ消費され、退職金受け取り時の有効退職所得控除が1720万円のみとなります。
退職金を65歳で受け取る際に2000万円から1720万円の退職所得控除を差し引くので、280万円が超過分として残り、その2分の1が分離課税の対象となるため所得税7万円、住民税14万円、合計21万円の納税となり5年ルール適用の時よりも手取りが減るのです。
最近は65歳定年の会社も増えているそうで、5年ルールを使って受け取れば税金の支払が少なくて済むと目論んでいたところいきなり10年ルールに変更となれば「改悪」といわれるのも仕方がないことかも知れません。