はじめに
改正が重ねられるiDeCoですが、加入可能期間のさらなる延長と毎月の掛金上限額の引き上げにより、いよいよ1億円超えの資産形成の可能性も出てきました。しかし、それは同時に受取り時に多額の税金を払うことを示唆しています。今回は、最大限iDeCoを利用した場合の税金を試算してみます。
iDeCoの変更点
iDeCoの毎月の掛金上限額が拡大される見込みです。自営業などの第1号被保険者は75,000円、会社員や公務員などの第2号被保険者は62,000円に引き上げられます。
これまで第2号被保険者については、勤め先の企業年金の有無により掛金上限額が複数設定されていましたが、これがすべて一律になります。特にこれまで企業年金がない会社にお勤めの方は月23,000円が掛金額の上限でしたから、実に39,000円もの引き上げです。
企業年金がある会社にお勤めの方の場合、企業型DCの掛金と他制度等掛金、例えば確定給付企業年金(DB)の掛金とiDeCoの掛金の合計額が62,000円となります。企業型DCのある会社にお勤めの方の場合、マッチング拠出の掛金も会社の掛金を上回ってはいけないという決まりが撤廃され、合計額が62,000円となるので、より使いやすい制度に生まれ変わります。
残念ながら第3号被保険者の場合、月23,000円の掛金についての変更はありませんが、第2号被保険者の扶養であることを考えると、掛金拠出時の所得控除のメリットが受けにくいという点からやむなしとも考えられます。
加入期間については、現行65歳までのところが、70歳までの加入(掛金拠出)が可能になります。これまでは公的年金加入者であることが延長加入の条件であったため、第1号被保険者の場合、過去に国民年金の未納期間があるなどの理由で任意加入ができる限られた方以外は60歳が上限となっていました。
そのため、実質65歳まで加入ができるのは雇用延長などで厚生年金に加入している方のみだったのですが、今般の税制改正大綱では、公的年金加入が条件ではなくなるようなので、老齢年金を受給していないなどの条件を満たせば被保険者区分にかかわらず70歳までの加入が可能になりそうです。
50年間iDeCoで積み立てた場合、税金はいくらになる?
では、最初の試算として、最も多くの掛金をかけられる第1号被保険者が20歳から70歳までiDeCoに加入した場合の税金を検証してみましょう。
掛金は毎月75,000円を50年間積立します。投資元本は4500万円です。この段階でNISAよりはるかに大きな資産形成が可能になることがわかります。仮に拠出時の節税メリットを計算する際の所得税率を10%、住民税を10%とすると、掛金拠出時の節税のメリットは900万円となります。
この掛金を4%平均で運用できたとしましょう。すると50年後の資産は1億4036万円になります。このうち運用利益は9536万円ですから、通常運用益にかかる税金を20%とするとiDeCoで運用することにより1907万円もの税金を圧縮したことになります。
つまり、第1号被保険者が最大限にiDeCoを活用した際の拠出時、運用時の税のメリットは合計で2807万円であることが理解できます。
では、この1億4036万円を一括で受け取ると税金はいくらになるのでしょうか? 退職所得控除は加入期間50年ですから2900万円(800万円+70万円x30年)です。超過した分を2分の1すると課税対象は5,568万円となります。
この金額を所得税の速算表に当てはめてみます。5,568万円x45%-4,796,000円=2026万円の税金を支払うことになります。結論として、拠出時、運用時の税制優遇によるメリットが2807万円に対し、受取り時の支払うべき税金が2026万円。つまり差し引きのメリットは781万円です。
税のメリットが781万円ともなると、さすがにiDeCoはお得だと感じるかと思いますが、実際は払わなくて済んだ税金のメリットは過去のことと忘れてしまって受取り時に告げられる2026万円の税金の支払をマイナスだと感じてしまう人は多いのではないでしょうか?
この前提では、掛金拠出時の税のメリットを計算する際の所得税を10%としましたが、5%であれば住民税の10%を加味しても節税メリットは掛金総額の15%ですから、675万円になるため、差し引きのメリットは556万円に縮小してしまいます。
もちろん退職所得控除を上回る分は年金として分割受取りをする対処法もあるでしょう。しかし70歳から年金受け取りをすると公的年金(iDeCo加入のために繰下げが必要)の金額と合算され公的年金等控除が適用されるため、控除の額を上回る可能性が高くなってしまいます。こちらは総合課税なので分離課税の退職所得より課税率が高くなるかも知れません。