はじめに
1800万円を積み立てた場合、税金はいくらになる?
とはいえ、最大値の75,000円を50年もの間積立てられる人はそうはいないと思いますので、もう少し現実的な数字で考えてみます。NISAの生涯枠と同額の1800万円を50年かけて積立をした例で試算してみましょう。
月々3万円を50年積立すると1800万円になりますから、拠出時の節税メリットは360万円です(所得控除のメリットを計算する税率は10%、住民税は10%とする)。4%で運用すると50年後の資産残高は5614万円でそのうち運用利益は3814万円、運用益非課税のメリットは763万円です。
つまりNISAとiDeCoのそれぞれに50年間毎月3万円ずつ積立をすると運用益に税金がかからないという点では同じなので、iDeCoの所得控除を受ける分税金のメリット360万円が、iDeCoがNISAより得する金額ということになります。
では70歳で一括受取りをした際の税金を考えていきましょう。先ほど同様退職所得控除は2900万円ですから資産残高5614万円から差し引き超過分を2分の1します。つまり1357万円が課税対象となり納税額は294万円となります。(1357万円x33%-153万6,000円 所得税の速算表より)
結論として、1800万円を投資元本として資産形成をするのであれば、iDeCoの方がNISAより66万円(360万円-294万円)多く得することがわかります。しかしこれでさえも、所得控除のメリットを計算する際の所得税率が5%であれば所得控除のメリットが270万円となりますから、納税額の方が拠出時のメリットを上回りさらに資金の引出タイミングも自由なNISAの方が良かったということになってしまいます。
iDeCoは不確定要素が多く、将来の受取額が見込みにくい
きっと読者の方の中には、現状の税制でのシミュレーションは、今後税制が変わる可能性もあり、無意味だとおっしゃる方もいるでしょう。
しかし筆者が指摘したいのは、iDeCoは将来の受取り額を試算する際に影響する要因が多く複雑すぎるという点です。掛金上限額も働き方で変動する、所得控除のメリットも収入により税率が異なる、退職所得控除の計算ルールも突然変更される、所得税の税率でさえいつ変るか分らないとなれば、どうやってライフプランを組み立てたら良いのでしょうか?
そもそも国はiDeCoを「税制優遇」と謳って紹介しているのですから、できるだけ税金がかからないように資産形成をしたいという気持ちは非難されるべきことではありません。そのため受取り時に大きな税金の支払が待っているという事実は、なかなか想像しがたいのではないでしょうか?
現在SNSでさかんにいわれる受取り時のルールが5年から10年に変更される点はまだマイナス影響は小さく、むしろ今後生まれるであろうiDeCo長者に対する課税については、いますぐ整理をしていただく必要があるのではないかと筆者は強く思います。
まずiDeCoと企業からの退職金を同じ扱いとするところに無理があると考えます。確定拠出年金は企業型DCから普及が始まったという歴史的な事情があるということも理解できますが、iDeCoはあくまでも任意で加入するものなので、企業からの退職金とは心情的に大きく異なります。
FPとしてライフプラン相談に応じていると、企業型DCも含め会社からの退職金に対して課税されることについては、あまり抵抗なく思われる方が多いように感じます。会社からもらうものという意識がそうさせるのではと筆者は考えます。一方iDeCoの場合、積立元本も含めた総額が課税対象として計算の元になるという点に違和感があるのだと思います。積立時は所得控除になるのに、後から課税されると「騙された感じがする」と表現された方もいらっしゃいました。
例えば、貯蓄性の保険だと一時所得として受け取れるものもあります。この場合、受取り総額から支払った保険料を経費として差し引くので繰り延べされた利益が課税対象となります。そこから特別控除の50万円を差し引き2分の1して総合課税がなされます。
もちろん、利益が出ていればそれなりの税金を支払うことになりますが、自分自身が積立てた保険料については課税対象となりません。もちろん総合課税なので、公的年金等控除後の課税とさほど差はないとなるかも知れませんが、少なくともこの方法であれば先ほどの「騙された感」はなくなるのではないでしょうか?
あるいはNISAのように、iDeCoで積立ができる金額の生涯枠を設定して、いつから積立をはじめても、何年積立てても、拠出額の生涯限度額までについては、掛金拠出時、運用時、受取り時も含め一切税金の支払が発生しないといったシンプルな仕組みにしても良いのではないかと考えたりします。
退職所得控除額が縮小したら、公的年金等控除が縮小したら、所得税率が引き上げられたら、103万円の壁が123万円に変わったらなどなど、現行iDeCoはあまりにも不確定要素が多く、将来の受取額が見込みにくいのは大いに問題があると思います。
時代と共に様々な変更が行われるのは理解できますが、制度はできるだけシンプルに、そして加入者が安心して長期間にわたり活用できる、信頼のおける制度でないといけないような気がします。ぜひ加入者が不安なく使えるような整備の検討をお願いしたいです。
とはいえ、現状ではメリットは間違いなく大きいとはいえ「落とし穴」ともいうべき点が複数存在するiDeCoですので、自己防衛のためにも良きアドバイザーを見つけ、上手に活用されると良いのではないかと考えます。
相談先としては、筆者を含めたファイナンシャルプランナーに個別に連絡してみる、あるいは日本FP協会のホームページにFPの上級資格であるCFPを保有するファイナンシャルプランナーを検索する機能がありますし、J-FLEC(金融経済教育推進機構)という認可法人からアドバイスを受けることもできます。
iDeCoは老後資金作りとしては、やはり有効な手段です。ぜひご自身にとって最適な活用をされることをお勧めします。
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