はじめに
世の中には、利用されずに放置状態にある不動産が非常に多くあります。例えば、先祖代々引き継いできた山林や農地、親が生前に住んでいた空き家など、所有者としては必要としていない不動産をやむを得ず相続し、何もせずに放置しているケースなどはその最たる例です。そのほか、自分が若いころに買った別荘地などで、生活スタイルや社会情勢の変化によって、今となっては不要となった不動産をそのまま所有しているケースなどもあります。
こういった不動産は、所有していても固定資産税の負担や維持管理の手間がかかり続けるため、少しでも早く処分できるに越したことはありません。そのため、多くの人は地元の不動産会社などに相談して、その売却活動を試みることになります。しかし、地方過疎化の進行なども相まって、大半の不動産はなかなか買い手・借り手が見つからずに、売りたいのに売れない歯がゆい状況に陥っているのが実態です。
売却苦戦をしている不動産の所有者の中には、市町村役場などに寄付を申し出て、譲渡する形で処分を目指す人がいます。その人達の考えとして、「実際に不動産を使用せずに持て余しているくらいならば、売却益などは諦めてでも、行政に活用してもらって世の中に少しでも貢献できたら嬉しい」という考えの下で、寄付を試みているようです。
ところが、実際にはこの寄付がうまくいくことは滅多にないようです。そこで、この記事では、「市町村役場に対して要らない不動産を寄付することは、どうしてうまくいかないのか」とともに、寄付以外の売却処分の選択肢についてご紹介します。
市に寄付するのは、99%ムリ!?
結論からいうと、「市町村役場に対して、要らない不動産の寄付を申し出ても、99%断られる」のが現状です。所有者にとっては、不動産といえば個人資産の中で最も高額な資産であることも少なくないため、社会貢献ともいえそうな寄付の申し出に対して、そのような善意を無下にするとは何事だ、とも思えてしまいます。
しかし、市町村役場の立場から考えると、寄付で取得した不動産の管理をしていく必要があり、その管理には市民の税金が使われると解釈できるため、「市民のために、公共性を見出せる資産なのか」という観点から慎重に検討せざるを得ない側面があります。そのため、例えば道路、公園といった公共施設に利活用できる見込みがない不動産は、せっかく善意の寄付の申し出であっても、断られてしまうことになってしまうのです。
寄付以外で、要らない不動産を売却処分する手段はある?
ここまで見てきた通り、要らない不動産を処分する方法として、市町村役場に寄付することは残念ながらほぼ難しいことが分かりました。0円での寄付すら処分方法が断たれたとなると、”0円でも売れないマイナスの負債”として、例えるならばババ抜きのジョーカーのように、誰かが引き受けてくれるまで手放したくても手放せない、永遠に所有する不動産になる可能性すらある現実に直面します。
それでは、要らない不動産の売却処分を実現する選択肢は、本当にないものでしょうか。ここからは、近年新設された制度の解説を中心に、考えられる選択肢を見ていきたいと思います。
国が有料で引き取ってくれる「相続土地国庫帰属制度」
寄付も断られるような不動産の処分に困る土地所有者の救済措置の一つとして、2023年から、「相続土地国庫帰属制度」という制度が始まりました。
この制度は、相続で取得した土地所有者が国に対して負担金を支払うことで、利活用の見込みが立たない、要らない不動産を国が引き取ってくれる制度です。例えがやや不謹慎ですが、故障して動かない大型家電や大型家具を、粗大ごみの処分料を払うことで回収してもらえる仕組みに似ています。国はそのような土地を引き取ってから、国有地として所有・管理をしていくことになります。
この制度の特徴の一つは、0円で譲渡する寄付とは異なり、処分する側が費用を負担する必要があるという点です。先程述べた通り、これまで放置状態だった土地だとしても、責任をもって所有していく立場にとっては、維持管理をするには少なからず経費がかかります。その経費をすべて国の税金から賄うのは公平性に欠けるという考え方から、粗大ごみと同じように有料処分という概念が採用されています。負担金は、土地の特徴により1箇所あたり20万円~と設定されています。
ただし、境界がはっきりしていないと引き取ってもらえない、空き家があるとNGなど、実際には審査が通らない土地もかなりの割合で存在しており、誰もが気軽に利用できるわけではないため、この制度に対しての評判は決して高くないのが難点です。