はじめに

定年を間近に控えた方の中には、退職金と確定拠出年金を老後資金に充てようとお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、確定拠出年金を退職金と同じ年に受け取ると想像以上に税金が課せられ、がっかりすることがあります。「知らなかった」と後悔しないように、「受け取り方による税金の違い」を解説します。


確定拠出年金の課税の仕組み

2001年に確定拠出年金が日本に導入され早20年以上が経過しました。しかし、2016年までは、企業の退職金の一部としての「企業型DC」が主流で「個人型確定拠出年金」は、加入資格が自営業者と企業年金のない会社にお勤めの会社員のみとされていました。

その後2017年に個人型確定拠出年金に「iDeCo」という愛称が付けられ、すべての公的年金被保険者が加入できるようになりました。

実際、60歳でiDeCoの老齢給付金を受け取るには、それまでの加入期間が10年以上必要なので、iDeCo加入者の中には「受け取り時」の税金について理解している方はまだまだ少数派のようです。しかし、確定拠出年金は「税の繰り延べ」であるがゆえに、老齢給付金の額によっては、多額の税金を支払わなければならないケースもあり、事前に「出口戦略」を講じる必要があります。

はじめに確定拠出年金の受け取り時の課税の仕組みをおさらいします。60歳まで積み立て運用した資金を受け取る時は、元本と利益の合計を老齢給付金と呼び、一括で受け取る場合は、それまで掛金を拠出した期間「加入期間」で退職所得控除を計算します。加入期間20年までについては1年あたり40万円、20年を超える部分については1年あたり70万円で計算します。つまり加入が10年だと退職所得控除は400万円、20年だと800万円、30年だと1500万円となるわけです。

仮に企業年金のない会社員の掛金上限額23,000円を年利4%で10年積み立てると、老齢給付金は約338万円、20年だと約840万円、30年だと約1600万円となります。受け取り時には退職所得控除額との差額の半分が課税の対象となり、その他の所得とは切り離され分離課税されます。

例えば加入期間10年の場合は、老齢給付額338万円は退職所得控除額400万円を下回りますから、一切税金を支払うことなく受け取れます。

加入期間20年になると、老齢給付840万円に対し退職所得控除額は800万円ですから課税対象は40万円の半分、20万円です。ここに所得税5%、住民税10%がかかるので、税金は3万円となります。840万円から3万円が源泉されても、これまでの掛金に対する所得控除や運用益に対する非課税メリットを考えると充分メリットを感じるところでしょう。

加入期間30年の場合を見てみましょう。老齢給付額1600万円に対し、退職所得控除額は1500万円、差額の100万円の半分である50万円に対して所得税5%、住民税10%課税されるので、税金は75,000円です。それなりに痛い出費ですが、それでも先ほど同様、その他の税のメリットを考慮すれば納得感もあるところでしょう。

では、60歳で会社からの退職金とiDeCoを同時に受け取る場合はどうなるのでしょうか? 同じ年に複数の退職金、あるいはiDeCoのように退職金扱いとなる資金を受け取る場合、ひとつの退職金とみなされます。そのため合算され、かつ退職所得控除は最も長い勤続年数あるいは加入年数のみを用いて計算することになるので、結果的に納税額が大きくなる可能性があります。

会社の勤続年数は30年、退職金1500万円、iDeCoあるいは企業型DCの加入が10年で老齢給付金は400万円だとしましょう。60歳でいずれの資金も受け取ると、合算され1900万円の退職金として税金が計算されます。

会社の退職金の退職所得控除は勤続30年なので1500万円です。iDeCoあるいは企業型DCは加入期間10年なので退職所得控除は400万円。しかし、両方を同じ年に受け取る場合は、重複した期間は打ち消され、退職所得控除額の大きい方のみが採用されます。

つまり、1900万から1500万円の退職所得控除額を差し引いた400万円の半分、200万円が課税対象となります。200万円にかかる所得税は、一部税率10%が適用され102,500円。そして住民税は200,000円、合計302,500円の税負担となります。

退職金1500万円も、iDeCoあるいは企業型DCの400万円もそれぞれであれば退職所得控除額内なので全額非課税で受け取れますが、同年受け取りであればこのように30万円超の税金が差し引かれてしまいます。

仮にiDeCo(企業型DCは退職金と同時に老齢給付の受給権が発生することの方が多いと思うのでここではiDeCoのみとします)を先に受け取って5年後に会社の退職金を受け取った場合、現行であればそれぞれの退職所得控除を利用できるため、このケースであっても全額非課税で受けとれます。しかし、今般提出された税制改正大綱がそのまま決定されると、2026年以降は同年受取と同様の課税ルールとなるため、やはり30万円超の納税が必要になります。

あるいは会社の退職金を先に受け取りiDeCoを後で受け取ったとしても、iDeCo受け取り以前20年間については同年受取と同様の課税ルールとなるため、こちらも納税額は同額です。

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