はじめに

3位:2500円スーツ

いよいよベストスリーの発表。引き続き4桁(1,000円台)の金額です。3位には「2500円スーツ」がランクインしました。

2500円スーツは、バブル崩壊(1991年)の少し後である1993年の受賞語(表現部門・金賞)。当時、洋服の青山(青山商事)がこの価格でスーツを売り出し、大きな話題になったのです。このような低価格化の動きは「価格破壊」とも呼ばれていました。実際、価格破壊という言葉は、翌1994年の新語・流行語大賞でトップテンに入賞しています。ちなみにその時の受賞者は、ダイエーグループの中内功会長(当時)でした。

2位:1万円割れ

いよいよ2位の発表。ここでようやく5桁(10,000円台)の金額が登場しました。とはいえ「割れ」という表現が、なにやら「負のオーラ」も漂わせています。

2位にランクインしたのは「1万円割れ」という言葉。これは小泉政権が発足した2001年のノミネート語。日経平均株価が1万円を割れたことを表現しています。振り返ると、日経平均株価が約3万9000円の史上最高値を記録したのが1989年12月のこと。そこから株価が徐々に下がり続けて、2001年にはついに1万円割れの水準にまで落ち込むことになりました(ちなみに現在までの最安値は2009年3月の約7000円)。同じ年に、前述の「65円バーガー」や「300円亭主」が話題になっていたのも頷けます。

1位:年収300万円

そしてトップは、6桁(100,000円)を飛び越えて、いきなり7桁(1,000,000円)の金額となりました。しかし金額の大きさとは裏腹に、なにやら物悲しい雰囲気が漂ってくる言葉でもあります。新語・流行語大賞に登場する最高金額は「年収300万円」でした。

この言葉は2003年のトップテンを受賞。受賞者は、当時UFJ総合研究所の経済・社会政策部長であった、現・経済評論家の森永卓郎氏でした。当時の解説(現代用語の基礎知識)は年収300万円を次のように解説しています。「いま転職すれば即刻年収300万円、転職しなくてもじわじわと賃金が下がっていき300万円に落ち着く時代」。

ただこの300万円という数字について、現在の視点でみると「恵まれている」と感じる人も多いかも知れません。例えば企業に務める正規雇用の人(役員以外)が受け取った2016年の給与の平均値は487万円(なお「平均値」の数字は、世間の実感に近い「中央値」より高い数字になる傾向がある)。いっぽう「非」正規雇用の人の平均値はわずか172万円でした。その差は315万円にのぼります。

バブル崩壊後の日本経済が見えてくる

ということで今回は、新語・流行語大賞に登場した「金額絡みの言葉」を、金額が少ない言葉から多い言葉の順で、ランキング形式で紹介してみました。

冒頭でも触れた通り、このランキングに登場するほとんどの言葉は、バブル崩壊後の経済状況を反映しています。例外的な言葉は、事件絡みの1000円パックや、バブル経済前の円高傾向を表した150円台(とはいえバブルの遠因となった言葉でもある)だけだったのです。

バブル時代(1996年~1991年)に「○○円」という語形の流行語があまり登場しなかったことは、筆者には非常に興味深く思えます。当時も経済状況を反映する新語はあるにはあったのですが、あったとしても「地上げ」(1986年)とか「マルサ」(1987年)とか「ハナモク」(1988年)とか「アッシーくん」(1990年)とか、どちらかというと社会現象そのものに注目した言葉が多かったのです。

デフレに苦しむ日本経済の状況が、安値の象徴としての「○○円」という表現を、たくさん生み出した(あるいは注目させた)のかもしれません。

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