はじめに

金融庁が高齢者向け「プラチナNISA」の創設を検討しています。新NISAでの購入は不適切と烙印が押された「毎月分配型」の投資信託の取り扱いを検討しているようですが、実際そこにメリットはあるのでしょうか? 今回はNISAの取り崩し方法も含め解説していきます。


分配金と配当金は別物

最初に「毎月分配型」の投資信託がなぜ新NISAでの取り扱いが認められなかったのか、その理由から確認していきましょう。筆者はプラチナNISAの創設をきっかけに「毎月分配型」が注目されることについて、3つの問題点があると考えています。

よく勘違いされるのですが、投資信託における「分配金」と株式投資における「配当金」は違う物です。どちらも「儲け」からの還元だろうと思ってしまうと、投資信託の分配金が多ければ多いほど良いのだと勘違いして、毎月分配型の問題点が分かりにくくなるので、まずは双方の違いから見ていきましょう。

企業利益の一部を投資家に還元することを「配当」といいます。通常決算が行われた際に、今期はこれだけの利益が出たので、投資家に〇%の配当を出そうと決定されます。

企業がその利益からどのくらいを株主に還元したのかを示すのが配当性向です。東証プライム上場企業(大型上場企業)の平均配当性向は、近年ではおおむね30~40%前後といわれています。必ずしも利益が出ているから配当も大きいという訳ではありませんが、継続的に安定した配当を行っている会社は業績堅調という評価を受けることが多いです。

「分配金」とは、投資信託の収益から投資家に還元するお金です。このお金は、運用成果や今後の見込みなどを考慮した上で運用会社が決めます。その支払いは投資信託の資産から出すため、分配金を支払うとその分だけ基準価額が下がります。

ここまでを整理すると配当と分配の違いは投資家に還元する資金の出所となります。配当は企業の業績を反映するものであり、配当の支払いによって株価が必ず下がるということはありません。一方、分配金は、投資信託自身の資産からの支払いなので、それにより必ず基準価額が減少します。

長期投資においては、生まれた利益を再投資する複利的な成長が期待されます。NISAは、長期投資で運用益非課税のメリットを受けることを最大の目的としているのですから、高齢者には異なる制度設計が改めて必要なのだというプラチナNISAの発想自体に疑問を感じます。これが1つめの問題です。

過去には「毎月分配」で大きな問題が起こった

分配金も収益の還元なのであれば、何が問題なのか?と思うかも知れません。もちろん適切なタイミングで適切に利益が分配され、さらに投資家自身がその受け取りを必要とするのであれば問題はないでしょう。

しかし、過去には「毎月分配型」の投資信託は「毎月分配」を約束したがために、無理な分配を行ったことが大きな問題になりました。毎月分配型では、今後の運用成績がどうなるかも分からないのに毎月分配金を出すことを約束してしまい、結果運用がうまくいかない局面で自分自身の資産を食い潰してしまったのです。

かつて「グロソブ(グローバル・ソブリン・オープン)」との愛称で大変な人気を博した投資信託がありました。ピークは2010年前後だったかと思いますが、当時高齢者に「年金のように安定して毎月分配金が入る投資信託」というようなうたい文句で販売数を伸ばしていました。

このグロソブは、主要な先進国の信用力の高い公的債券に投資して、得られた利益を毎月一定額ずつ分配する仕組みです。最初は運用も順調で、収益からの普通分配が中心でしたが、2008年頃から米国債券の利上げと円高などの影響により特別分配の割合が増加し、2013年以降はほとんどが特別分配でかつその分配を維持するために基準価額は右肩下がりとなりました。

普通分配とは、利益の分配です。一方、特別分配とは、元本の取り崩しを指します。どちらにしても資金が投資信託の純資産の外に出て行ってしまうため基準価額は下がるのですが、それでも利益から分配する普通分配と、自分の資産を削って出した特別分配は性質が大きく異なります。

特別分配は「タコが自分の足を食べているようなもの」つまり「タコ足配当」なのだから、「年金のように安定した財源」と勘違いしている投資家に対してどう説明をするのだといった議論が激しく行われました。

当時、「普通分配」と「特別分配」の違いを知らずに投資をしていた高齢者も多かったことを金融庁が問題視し、特別分配金という表記を2012年以降、「元本払戻金(特別分配金)」と明記するようになりました。

実際筆者も、「特別分配金」を当時の一般NISAで受け取り非課税だからと喜んでいらっしゃるお客様に出会ったことがあります。特別分配金は、利益の分配ではなく元本の取り崩しなのでそもそも課税されるものではないのだと説明をしたら、そんな話を証券会社はひとつもしなかったと憤慨されていました。

「毎月分配」という文言は、年金生活者の過剰な期待と誤解を招き兼ねず、プラチナNISAでもまたかつてのような悲劇が繰り返されるのでは?という懸念が拭えないのが2つめの問題です。

投資管理もマネーフォワード MEで完結!配当・ポートフォリオを瞬時に見える化[by MoneyForward HOME]