はじめに
NISAの制度見直しが行われてから1年半近くが過ぎました。かねてからいわれてきた「貯蓄から投資へ」の流れは定着したのでしょうか。いくつかの数字を参考にして考えてみます。
現金・預金の残高は微増
NISAの制度見直しが行われたのが2024年1月のこと。これにより、NISAの使い勝手が格段に向上し、口座開設数も増えました。実際の数字を見てみましょう。
金融庁が公表した資料によると、2024年12月末時点のNISA口座数は2560万4058口座で、制度見直しが行われる直前、2023年12月末の2248万6363口座から見ると、13.86%の増加となりました。着実にNISAの利用者は増加傾向にあります。
ただ、問題は口座を開けただけで、何のアクションを起こさない人もいることです。NISAの口座を開設したものの、何も買わずにいる人も少なくありません。その点では、口座数が増えているからといって、本当の意味で「貯蓄から投資へ」の流れが進んでいるとはいえないところがあります。
そこで、日本銀行が四半期に1度の頻度で公表している「資金循環統計」を見てみます。よく「個人金融資産2230兆円に」などと、メディアで報道されている数字は、この資金循環統計に掲載されているものが用いられています。
資金循環統計に掲載されている家計部門の金融資産総額は、2024年12月末時点で2230兆2808億円でした。これは2024年9月末比で2.31%の増加です。前年同月比では4%の増加であり、過去最高額になりました。
そして、そのうち50.85%に該当する「現金・預金」の残高は1134兆2584億円で、前年同月比で0.59%増です。微増というところでしょうか。
定期性預金から投資信託への資金シフト?
「現金・預金」の中身を、さらに細かく見てみましょう。現金・預金は「現金」、「流動性預金」、「定期性預金」、「外貨預金」の4つに分かれています。それぞれの2024年12月末時点の額と、それらの前年同月比を計算すると、
現金……105兆2968万円(▲3.37%)
流動性預金……671兆70億円(2.96%増)
定期性預金……350兆5684万円(▲2.64%)
外貨預金……7兆3604億円(8.81%増)
となります。何となく、「インフレ=金利上昇」の影響が見られなくもない、という印象を受けます。特に現金は前年同月比で3.37%減でした。物価が上昇するなか、現金で資産を持つことのデメリットが高まりつつあります。それでも105兆円超もの現金がタンスに眠っているのが驚きではあります。
とはいえ預金に関しては、まだインフレの影響は見られません。流動性預金の残高が増加している反面、定期性預金の残高が減っています。恐らく現在の金利差では、定期性預金を選ぶメリットがないと、預金者が判断しているのかも知れませんし、これから説明しますが、運用目的で預けられていた定期性預金の資金が、投資信託などリスク性資産にシフトした可能性もあります。