はじめに

最低投資金額引き下げによる投資家層の拡大と期待される効果

東京証券取引所の最低投資金額引き下げでもっとも期待されているのは、新NISAなどを活用した投資家層の拡大だと考えられます。また、株式分割によって株数が増えれば、流動性が高まり、極端な値動きが抑えられることが期待されます。流動性の向上は企業の評価にもプラスに働くため、企業価値全体の押し上げ効果が期待されますし、特に中小型株や成長株にとっては、個人投資家の参入が株価のボラティリティを安定させ、さらに売買する投資家が増える材料にもなりえます。

加えて、株主が多様化することによって企業の説明責任が明確になり、個人投資家に向けてIR活動に注力される企業は増えていますが、さらにそのような企業の増加、ガバナンスの健全化が進む可能性もあるでしょう。

株式分割は企業が発行済みの1株を複数の株に分割することです。たとえば、1株を2株に分割すれば、株主が持っていた株は倍になりますよね。一方で会社の価値(時価総額)や株主の資産の総額は変わりません。1株あたりの価格が下がって、株数が増え、1株あたりの価格は低下します。

図

株式分割による個人投資家増加の事例

株式分割で個人投資家が増加した例を簡単に挙げていきたいと思います。

まずは任天堂(7974)です。2022年5月に任天堂は10月1日付で発行済普通株式を株式分割すると発表しました。同社の株式分割は1991年5月以来31年ぶりでしたが、1株を10株に分割する株式分割を実施しました。当時の任天堂は値嵩株と言われ、最低投資金額が500万円超え。分割後、10分の1の金額で買えるようになったことで、個人投資家の取引が活発化しました。ほかにも2023年2月に同じく値嵩株であるファーストリテイリング(9983)が1対3の株式分割を実施。任天堂はニンテンドーDSなど、ファーストリテイリングもユニクロで私たちの生活にとても身近かつ日本が誇る企業でもあるため、少ない投資資金からでも株主になれるというのをメリットに感じた方は多かったのでは。

ほかにもキーエンス(6861)やディズニーリゾートのオリエンタルランド(4661)、ファナック(6954)、信越化学工業(4063)など名だたる企業も近年株式分割を実施しています。株価が高くなりすぎると取引が減る懸念もありますし、人気銘柄の投資単位が引き下がると、新規資金が流入しやすくなるという側面はたしかにあるようです。

今年も2025年3月に基準日を設定しているKDDI(9433)や第一生命ホールディングス(8750)、味の素(2802)などが株式分割を実施。ビットコイン関連銘柄として注目され2024年の年間株価上昇率1位だったメタプラネット(3350)は1株を10株に分割する株式分割を実施しました。

さらに株式分割がニュースになると「買いやすい=注目されやすい」と考える投資家もいるようで、株式分割はポジティブなニュースとして受け取られやすく、株価が上昇するケースもあります。株式分割により株主数や流通株式数が増加することにより鞍替え上場を狙う企業は上場基準を満たしやすくなるというメリットも。

また株式分割によって株数が増加したのに1株あたりの配当金額が変わらない場合は実質的に増配となるため株主にとってはプラスです。ただし懸念や課題も考えられます。

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