はじめに
国内メガネ市場は、すでに一定の需要が飽和しているとされる成熟産業です。しかしそんな中、JINS(ジンズホールディングス)とZoff(インターメスティック)がそれぞれ好調な決算を発表し、株価も堅調に推移しています。JINSは既存店売上やインバウンド需要の回復を背景に、インターメスティックはファッション性の高い商品や高粗利体制で利益を拡大。今回はこの2社を比較しながら、それぞれの強みや戦略の違い、成長性、そして投資先としてどちらに魅力があるのかを掘り下げたいと思います。
成熟市場なのに、なぜ好業績?
そもそも国内メガネ市場は、少子高齢化の影響を受けやすく、新規顧客の増加が期待しにくい「成熟産業」とされています。にもかかわらず、両社の業績が好調である背景には、次のような要因が作用しています。
1つ目はインバウンド需要の復活。特にJINSでは、年末年始を中心に訪日外国人による購買が大幅に増加し、高価格帯のメガネが好調で売上を大きく押し上げました。
2つ目は、ライフスタイルの変化に対応した商品展開。在宅勤務やPC作業の増加により、「自宅用」「調光レンズ」など用途別のニーズが拡大。JINSの「JINS HOME」や、Zoffの「SWEET&CHIC」など、ファッション性と機能性を兼ね備えた商品がヒットしています。
3つ目は、効率的な店舗戦略と利益率の改善。JINSはドミナント戦略で無駄のない出店を進め、Zoffはフランチャイズによる固定費抑制で営業利益率を16.2%まで高めました。成熟市場における明確な勝ち筋を実行できていることが、両社の好調さの源泉といえるでしょう。
決算データで見る2社の現在地
それでは、直近の決算数値を確認しましょう。
JINSは2025年8月期第2四半期において、売上高448.3億円(前年比+17.9%)、営業利益51.5億円(同+101.1%)と大幅な増収増益を記録しました。
主な成長要因は以下の通りです。
・商品構成の改善:「JINS HOME」など生活提案型アイテムが伸長し、販売構成比の高付加価値化が進行
・国内店舗の出店戦略の成功:小型商業施設や駅ビル中心の出店で利便性が向上。国内店舗数は509店舗に
・海外事業の再構築:中国での構造改革や台湾での地方出店により、海外売上も回復基調
こうした複数の施策が相乗効果を生み、通期予想も上方修正。また、好調を理由に配当金も67円から94円に引き上げました。これを受けて、決算発表翌日の株価は17.6%上昇しています。
一方、インターメスティック(Zoff)は、5月8日に2025年12月期第1四半期決算を発表。売上高116.8億円(前年同期比+12.3%)、営業利益18.9億円(同+47.4%)を達成しました。
好調の背景は以下の通りです。
・ブランド施策の強化:フェンシング日本代表・江村美咲氏を起用した広告で、ブランドの若年層への浸透を強化
・粗利率の向上と販管費抑制:粗利率76.1%、営業利益率16.2%と非常に高い収益性を維持。賞与引当の見直しも含め、利益体質が一段と強化されました
・堅実な出店戦略:国内311店舗(出店6、退店2)、海外21店舗はすべてフランチャイズで、リスクを最小化
通期予想の売上規模はJINSの約半分と小さいながらも、利益率ではZoffが大きくリードしており、あなどれないライバルです。決算発表翌日はストップ高となり、投資家の期待もZoffのほうが大きいのかもしれません。
それぞれの強みと戦略の違いは?
JINSは「近視のない世界を実現する」という理念のもと、バイオレットライトを用いた近視抑制メガネなど、機能性重視の商品開発に力を入れています。また、「JINS HOME」など生活シーン別の提案型商品も好調で、単価上昇にもつながっています。
出店も堅調で、国内509店舗、海外252店舗を展開。海外は中国・台湾・米国など多様な地域で直営展開し、現地市場に合わせた柔軟な出退店判断を行っています。
一方のZoffはファッション性を打ち出した商品展開が特徴。「UNITED ARROWS」など人気ブランドとのコラボや、フェンシング選手・江村美咲氏を起用した広告展開で若年層や女性層の取り込みに成功しています。ちなみに江村選手は2024年5月に「DIOR」のスポーツアンバサダーに就任しており、ファッションアイコンとしての注目度も高いインフルエンサーです。
また、フランチャイズを活用した出店(国内311店舗)により、利益効率を最優先した経営を実現。粗利率76.1%、営業利益率16.2%と高水準を維持しています。
両社の戦略は、JINSが「技術志向×グローバル展開」、Zoffが「ファッション×効率経営」と、まったく異なる武器で市場を攻略しています。