はじめに
2025年4月、トランプ政権の「相互関税」政策により世界的に株価が急落しました。幾度も相場の下落を経験してきた投資家であっても、急落する局面では不安に襲われるものです。まして、投資を始めて間もない方にとっては、冷や汗をかくような状況だったことでしょう。このような下落局面においては、投資をすることが怖くなり、「自分のお金はどこに置いておくのが一番安全なのだろうか」と、改めて資産形成について考えた方も多いかもしれません。
今回は、投資をしない選択をした場合、どこにお金を置いておくのが最適なのか、そして守りながら資産を育てる方法について、ファイナンシャルプランナーの視点から分かりやすく解説します。
投資をしないならどこにお金を置いておくのがベストなのか?
相場が大荒れのとき「とりあえず投資はやめておこう」と考える方も多いかもしれません。では、その場合、お金はどこに置いておくのがベストなのでしょうか。ここでは、3つ選択肢をあげ、それぞれのメリット・デメリットを解説していきます。
①普通預金・定期預金
多くの方が真っ先に思い浮かべるのが「普通預金」や「定期預金」です。これらは元本保証があり、万が一金融機関が破綻しても、預金保険制度によって1,000万円とその利息までは保護されます。普通預金はいつでも引き出せる流動性の高さが魅力で、定期預金も確実に元本が戻ってきます。しかし、日銀が政策金利の引き上げを実施したものの、大手銀行の普通預金は年0.2%、定期預金は年0.2%~0.5%の金利となっています(2025年5月27日現在)。安全性は抜群ですが、大きく金利の上昇が見込めなければ、資産を増やすことは、ほぼ期待できません。また、インフレが進行すれば、実質的にはお金の価値が目減りするリスクも無視できません。
②個人向け国債
次に注目したいのが「個人向け国債」です。これは個人の方のみが購入できる日本政府が発行する債券で、信用力が高いことが特徴です。10年(変動金利)・5年と3年(固定金利)があります。特に10年の個人向け国債は変動金利のため、今後金利が上昇すれば、利息が増えることも期待できます。1年経過後は、中途換金も可能で、安全性も高く、0.05%の最低金利保証もあります。
ただし、金利が低いままの場合は、リターンも限定的です。さらに、中途換金時には、直近2回分の利息が差し引かれる点には注意が必要です。急に資金が必要になる場合には、普通預金ほどの流動性はありませんが、長期的に守りを重視したい方には有力な選択肢となります。
③ネット銀行
ネット銀行の中には、メガバンクよりも高い金利を設定しているところもあります。預金保険制度の対象で1,000万円まで保護される点やオンラインで手続きが完了できる利便性も魅力のひとつです。ただし、注意すべき点もあります。定期預金の場合、「1年」など金利の高い期間が限られており、満期を迎えると金利が大幅に下がるケースもあります。また、「新規口座開設者限定」など、預け入れに条件が設定されている場合もあります。さらに、入出金や他行振込に手数料がかかることもあるため、事前にしっかりと確認することが大切です。これらの点を踏まえ、自分の資金計画や利用目的に合ったネット銀行を選ぶようにしましょう。
このように「安心」を重視するなら、これらの選択肢は現実的かもしれません。しかし、いずれも大きなリターンは期待できず、物価の上昇や金利変動の影響を受けることになります。ご自身の目的やライフプランに合わせて、最適なお金の置き場所を考えることが大切です。
守り過ぎのリスクを知る
相場が荒れているとき、「やっぱり現金が一番安全だ」と考える方も多いかもしれません。たしかに、現金や預金は元本保証であり、預金保険制度によって一定額まではしっかりと守られています。しかし、「守り」に偏り過ぎるのは、見落としがちなリスクも潜んでいるのです。
まず、最大のリスクはインフレ(モノやサービスの値段が上がること)によって資産が目減りしてしまうことです。私たちが日々の暮らしの中で購入するモノやサービスの価格がどのように変動しているか知るために、「消費者物価指数(CPI)」という指標が使われます。総務省が公表している2025年(令和7年)4月の消費者物価指数は、2020年を100とした場合、全体で111.5、前年同月比では3.6%上昇しています。
日本では長らく物価が上がらない状況が続いていましたが、ここ数年で状況は大きく変わりました。エネルギー価格や食品価格の上昇を背景に、物価がじわじわと上昇しています。こうした状況下では、現金や預金を持ち続けるだけでは、資産が安全に守られているつもりであっても、実質的な価値は目減りしていくのです。
さらに、現金や預金は安全性が高い一方で、「増やす力がない」という特徴もあります。普通預金や定期預金の金利が0.2%程度である一方で、物価が3%上昇していれば、実質的な利回りはマイナスです。相場が乱高下する環境下では、守りに徹することも大切かもしれませんが、守り一辺倒では、「資産を減らさないつもりが、実は減っている」という状況に陥りかねません。
また、資産をすべて現金や預金で持っていると、将来的に必要な資金を「投資の力」で増やすチャンスを逃してしまう可能性があります。たとえば、老後資金や教育資金といった長期的な資金は、投資を通じて運用していくことで、より効率的に準備できる可能性があります。すべてを現金や預金で持ち続けることは、一見安全に見えても「時間を味方につけて資産を育てる力」を自ら手放すことにもなるのです。
もちろん、短期的な生活費や緊急資金としての現金や預金は必要不可欠です。しかし、すべての資産を現金や預金に偏らせるのは、逆にリスクになる…。このことをぜひ心に留めておいてください。