はじめに
がんになった今、お金を使う意味を考える
診断前は節約志向だった相談者さんが、がんをきっかけに「ブランド品」「高級料理」などへお金を使うようになったこと。これは「浪費」ではなく、生きる手応えを取り戻すための「必要な消費」なのではないでしょうか。こうした変化は、決して責められるべきではありません。病気を通じて、「時間とお金は有限」という現実に直面したからこそ、“いまを生きる”ための消費が必要になったのです。
ただし、大切なのは「満足できる使い方かどうか」を自分自身に問い続けることです。たとえば、ブランド品は、買ったときの満足よりも、使っていて「自分らしくいられる」と感じるか? 高級料理は、単なるストレス解消でなく「本当に美味しく、記憶に残る体験」だったか? この問いを繰り返すことで、“お金の使い方の軸”が自分の中に育っていくはずです。
ちなみに、お金を使う対象には、幸福度が長続きするものとそうでないものがあることをご存じでしょうか? これは経済学者ロバート・フランク氏が提唱した概念で、幸福度が長続きするものを「非地位財」といい、他人との相対比較と関係がなく、それ自体に価値があり喜びが得られるものです。休日や友人関係、愛情、健康、自由、社会への帰属意識など、いわゆる「プライスレス」なものと言えばわかりやすいかもしれません。
一方、長続きしないのが「地位財」で、他人との比較優位によって価値が生じるものです。所得(お金)や貯蓄額、社会的地位、さらにクルマやマイホームなどが代表格でしょう。
地位財を追い求めたところで、上には上がありますし、ブランド品や高級料理もそのうち飽きてきます。相談者さんはがんになったことで、非地位財の一つである“健康”の大切さが実感できたはず。地位財に執着するのではなく、非地位財の充実を考えてみてはいかがでしょうか。
「後悔しないお金の使い方」をしていくために
これらを踏まえた上で、治療と仕事の両立、将来の不安——それらと向き合いながら、お金の使い方にも悩まれている相談者さんに、ひとつ提案があります。それは、お金を安心かつ幸福度を高める3つの支出に分けて考えるという方法です。
① 安心して治療に専念するためのお金(生活費・治療費・備え)
前述のとおり、土台となる安心の資金は一定額必要です。これは削らず、最優先で守りたい部分です。
最近の物価の上昇を受けて、節約したいお気持ちはわかりますが。食費を削ったり、エアコンの使用をガマンしたりするのはNGです。体力・気力の低下はがん患者さんの命取りになります。
② 生きる喜びをかみしめるためのお金(好きなこと・モノ・食・旅行)
これが“幸福度を高めるお金の使い方”の中核です。ここは、「自分が満たされる」と実感できるか? を判断軸にしましょう。
ブランドやコース料理でも、自分の価値観に合っていれば問題ありません。逆に、「一時的な満足」で終わるなら、別の形でお金を使った方が、心は満たされるのでは?
③ 生きる意味を確かめるためのお金(寄付、支援、学び)
実は、お金と幸せには相関関係がほとんどありません。でも自分ではなく誰かのためにお金を使うと幸福度があがるという研究結果があります。「がん治療中の今、そんな余裕なんかない!」と思われるかもしれませんが、治療が落ち着いたら、「人の役に立てた」「自分の経験が誰かの励みになった」——そういったお金の使い方を考えてみてはいかがでしょう? なにか、自分の人生に意味を与えてくれることが見つかるかもしれません。
がん患者さんの中には、がん体験をブログに記録して誰かと共有したり、患者団体に小さな寄付をしたり、ボアランティアで活動に参加したりする方もたくさんいます。自分の興味がある新しい分野の勉強を始めてみるのも良いですね。それが1,000円でも、1時間でも、誰かの希望になり、自分自身の生きがいになっていくのです。
「最期に後悔しないお金の使い方」とは
相談者さんは「人生を終える頃に貯金も使い切るのが理想」と書かれていました。たしかに共感できる考えです。「万が一のために」とお金を貯めすぎて、いざというとき使えないまま終わってしまうことは、本当にもったいないことです。
だからこそ、お金を「遠い将来に備える道具」から、「今をよりよく生きる道具」へと使い方を変えてもいいのです。そのうえで、自分の価値観や人生観に照らして「悔いのないお金の使い方とは何か?」を、これからも考え続けてください。
人生は、予想通りにいかないからこそ難しく、だからこそ味わい深いものです。30歳でがんという大きな出来事に直面した今、「どう生きたいか」「どうお金を使いたいか」という問いを真剣に考えている相談者さんの姿勢そのものが、すでに人生を豊かにしていると私は思います。
あなたにとって本当に大切なものに、お金が使えるように。そして、そのお金が、人生を少しでも明るく照らしてくれるように——。心から応援しています。
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