はじめに

2018年相場が始まりました。2017年は株式市場の躍進やビットコイン急騰に沸いた一方で、為替相場への注目度が低い1年でしたが、新しい年のマーケットはどうなるのでしょうか。為替相場に詳しいみずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんに、18年のドル円相場の見通しについて話を伺いました。


17年は歴史的に「動かない」年だった

——2017年は、FX投資家にとって利益チャンスが少なく、ビットコイン投資に流れたという話も聞きます。為替相場はどんな1年だったのでしょうか。

唐鎌(以下、同様): 歴史的にみても2017年は変動が少ない、「動かない」年でした。変動幅は10.5%と、プラザ合意がなされた1985年以降、史上3番目に変動率が小さい年となっています。

言い換えれば相場が安定していたということになので、輸出入企業にとっては平和な良い年だったといえます。一方で、値幅を取ることで利益を狙うFXではチャンスに乏しく、個人投資家にとってはつまらない1年だったでしょうね。

——なぜこんなにも「動かない」相場が続いたのでしょうか?

一昨年の16年、ブレグジットやトランプ大統領の当選など予想外の事態に相場が大きく反応したことからもわかるように、金融市場はサプライズで動くものです。ところが17年は、為替相場への影響が大きいアメリカの金融政策をはじめ、多くのイベントが市場関係者の予想の範囲内にとどまっていました。相場を動かすサプライズに乏しかったということに尽きるでしょう。

——ドル円相場が上昇すれば日本株も上がるというふうに、日本株とドル円は常に連動する印象がありました。しかし17年は、日本株の上昇を尻目に、為替は横ばいでしたね。

これは17年最大の謎ですね。これまで連動してきた日経平均株価とドル円相場は17年に入り大きく乖離するようになりました。この背景のひとつには、日銀のETF買いが考えられます。乖離は16年8月から始まっていますが、日銀がETF買い入れ額の倍増を決定したのも、16年7月でした。円安という援護射撃がなくても、日銀の支えで日本株は堅調に推移したはずです。

ただ、これは理由のひとつにすぎず、すべてを説明できるわけではないので、やはり謎のままです。このような状況に対して、投資家はそろそろ警戒する必要があると思いますね。

円高の「マグマ」はいつ吹き出してもおかしくない

——具体的に、どういうリスクを警戒する必要があるのでしょうか。

海外投機筋における円売りのポジションは依然として高水準に積み上がっています。投機である以上、利益確定するには売ったものはいつか買い戻さなければなりません。現状、売りが膨らんでいる状況ですから、将来的な円高のマグマが放置された状態で2018年を迎えることになります。

——いつ円高に転じてもおかしくない状況にあるのですね。しかし、投機筋が円を売っている間は、円安が進んでいるはずなのでは?

国際収支統計から試算した円相場の基礎的需給環境を見る限り、円買い需要が優勢になっている印象を受けます。具体的には、経常黒字が積み上がる一方、機関投資家(生命保険会社や年金基金など)による外国証券への投資は鈍っております。また、昨年までは勢いのあった本邦企業による海外企業買収も一旦は落ち着いた印象です。海外企業買収は日本企業による円の売り切り(&外貨の買い切り)ですから、これも円売り圧力を弱めるものでしょう。総じて、企業や投資家などにおける円の実需が高まっている事実があるのではないかと思います。
それゆえに投機的な円売りの影響が相殺されているのではないかと推測します。

現状、実需が円買いに傾いているにもかかわらず、為替相場では比較的円安の相場が続いており、「実需」と「実際の為替レート」にねじれが発生している状況です。このような状況は過去にもありましたが、最終的には実際の為替レートが実需に合わせる格好でねじれが解消しています。今回もそうだとすれば、今後は円高が起こりやすい状況になるでしょう。

——2018年のドル円は円高になる可能性が高そうですね。

その根拠はまだあります。まず、相対的な通貨の実力を測るための総合指標である実質実効為替レートは、理論的には長期平均に収斂することで知られています。一時的に乖離することがあっても、その状態が放置され続けることは考えにくいのが実情です。そこで過去20年平均と現在の実質実効為替レートと比較すると、足許の円は約20%も割安な状態となっています。これはアメリカ財務省の為替政策報告書でも指摘されている事実です。少なくともアメリカの通貨政策として円が割安であるという基本認識を持っていることは覚えておきたいところです。

もうひとつの根拠としては、FRBが示す「中立金利」の低さです。中立金利とはアメリカにとって引き締めし過ぎでもなければ、緩和し過ぎでもない金利であり、一般的には「利上げの終点」として理解されることが多いものです。FRBは四半期に一度、中立金利の見通しを発表しますが、12月に公表された12月の数字は2.75%でした。この数字は直近3年半で1%ポイントも引き下げられています。アメリカの長期金利は基本的には「利上げの終点」を天井として推移する傾向がありますから、これが引き下げられていることはそのままアメリカの金利の先安観に繋がるでしょう。今後、利上げは数回あるのでしょうが、だからといってアメリカの金利が上昇し、ドルが買われることを当然視するのは危険だと思います。

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