はじめに

不況を示唆する「逆イールド」が、目前に迫っている

——「アメリカが利上げすればドル高になる」という教科書的な原則は通用しなくなるのですね。

もうひとつ注目したいのは「イールドカーブ(金利曲線)のフラット化」です。本来、債券は期間が長いほど持っている人にとってリスクが高いので、期間が長い国債ほど金利が高くなるものです。それなのに、17年の米国債をみると、2年物の金利は上昇しているのに10年物の金利は横ばいで、本来大きく開いているはずの両者の金利差が縮まってきました。こうして短めの金利が上がる一方、長めの金利が上がることで、イールドカーブが平らに近づくことをフラット化と呼びます。

——その現象は、何を意味しているのですか?

今後、金利が上がっていくと多くの人が考えるなら、長期金利は上昇するのが当然です。それなのに上がらないのは、長期的にアメリカの景気は減速し、利上げは止まり、金利も低下すると市場が予想しているからでしょう。為替は金利に追随しやすいので、金利が上がらないと判断されればドルは売られます。これはもちろん、円高要因として警戒すべきものです。

さらにいえば、このまま10年物と2年物の金利差が縮まっていけば、逆転することも考えられます。これは「逆イールド」といわれる現象で、過去20年では、2000年前後と2006年前後に起こりました。

それはITバブル崩壊やサブプライム危機およびリーマンショックの前兆として生じたものでした。

——ITバブル崩壊とリーマンショックの前に起きていたのと同じ現象が、今にも起ころうとしているということですか。
 
2018年も利上げは3回行われると予想されていますが、その通りになれば、政策金利の影響を受けやすい2年金利はさらに上昇して、10年金利に追いついてもおかしくありません。もちろん、10年金利が上昇すればその心配はありませんが、過去の利上げ局面を振り返ると、10年金利も2年金利も、利上げの終点である中立金利が天井になっています。現状の中立金利が2.75%で、10年金利が2.4%、2年ものが1.8%ですから、10年金利は上がったとしても0.3%ほどしか上昇余地がなく、追いかけてくる2年金利を引き離すことが難しい状態にあるのです。

円安ドル高を予想する人たちは「アメリカが利上げすれば、日本との金利差が開くので円安ドル高になる」と口を揃えます。要するに長期金利差に付随してドル円相場が上昇するという理屈ですが、こうした前提条件が2018年中にも通用しなくなる可能性が浮上してきているのです。

「完全雇用」が市場のマインドを冷やす?

——世界経済や株価が堅調で、投資家はかなり楽観的になっていますが、18年は気を引き締めて臨む必要がありそうですね。

本当に18年に円高ドル安になるかどうかはともかく、過去に逆イールドが起こってから1.5〜2年後に、株が急落し不況が始まることが多かったという事実は覚えておく必要があるでしょう。

そもそも金融引き締めをしているのですから、株価が下落するのは自然であり、現状のように騰勢を強め続けることの方がイレギュラーなわけです。過去の利上げ局面でもアメリカの主要な株価指数であるS&Pは下落しています。

それなのになぜ今、こんなにも株価が上がっているのかといえば、それまでの金融緩和が異例の規模だったために、撤収に時間がかかっているからなのかおしれません。

株価はこのあと、下落に転じることは既定路線です。それが来月なのか半年後なのか1年先なのかという点には議論があるにしても、17年と同じように上昇が続くと考えるには相当な勇気が必要ではないかと思います。株価が下落すれば、FRBの利上げ路線継続が疑われ、金利は低下、やはりドルは売られることになります。

——何をきっかけにして、株式市場は下落に転じるでしょうか。

現段階で予想できるものでは、北朝鮮情勢やロシアゲート疑惑、債務上限問題や欧州における各種選挙などがありますが、金融市場を一気に冷え込ませるショックは、誰も予想できないものです。予想が出来たらショックには至らないわけですから。

ただ、エコノミストとして1つ指摘しておかねばならないのは、アメリカの雇用市場の先行きでしょう。現在、アメリカは完全雇用状態と言われて久しいですが、平均時給は伸びていません。賃金が上がらないので、一般物価も上がらない。こうした状況にもかかわらずなぜFRBは利上げを続けるのでしょうか。この点、FRBは「賃金はそのうち上がってくる」という説明を続けています。賃金が短期間に急激に引き上げられるような事態となれば、まとまった幅で利上げしなければならなくなる。そうなれば経済にダメージが及ぶかもしれない。だから今から少しずつ利上げしておくのが良いのだ、というのがFRBの基本的な立場と見受けられます。

しかし、この説明を信じるかどうかは微妙なところです。失業率が歴史的な水準まで低下し完全雇用状態に接近しているのは間違いないでしょうが、賃金が殆ど前向きな反応を見せていません。本当に上がってくるのでしょうか。

少なくとも雇用が改善しても賃金が上がってこないということは日本では長年に亘って見られている現象であり、IMFなどもこれが構造的な現象である可能性を指摘しています。今後、アメリカの雇用増加(失業率低下)はどこかで頭打ちになるはずですが、その時に賃金が上がっていなかったらFRBは利上げの手を止めざるを得ないでしょう。

FRBが引き締めプロセスについてトーンダウンすれば株価は下がるでしょうし、金利も下がり、ドルも売られるはずです。下落の引き金を引くのは必ずしも予想外の事件だけとは限らず、すでに見えている事象がじわじわと市場のコンセンサスとなり、ドル売りに繋がっていく可能性もあります。それが真っ当な予想というものかと思います。

——18年のドル円相場はどのぐらいのレンジを予想されていますか。

17年の楽観ムードを引きずっている間は114円程度まで上昇する局面があるかもしれませんが、105円から100円程度まで円高が進行する可能性は十分あるでしょう。

振り返ればリーマンショックの直前も、現在と同じように誰にとっても快適な「ゴルディロック相場」と言われていました。こうした状況が続くと警戒感が薄れてしまい、急に大きな変動がやって来たときに対応できない可能性があります。当時も円高を予想する向きは相応に存在したはずですが、耳を貸す向きは多くなかったと記憶します。

17年のドル円相場は変動に乏しい年でしたが、こうした状況が2年続くことは極めて稀です。投資家の皆さんは居心地のよかった17年はいったん忘れた上で、気を引き締めて新しい年の相場に臨むことが必要になると思います。