はじめに
2016年に公開された米国映画『マネーモンスター(Money Monster)』をご存知でしょうか。テレビの投資情報番組『マネーモンスター』の人気司会者であるリー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)が、生放送中に乱入してきた謎の男に人質に取られ、番組もジャックされることに。謎の男は「株の情報操作が不正に行われたため全財産を失ってしまった」と主張するのだが……という筋書きのサスペンスストーリーです。
さてここで注目したいのは『マネーモンスター』という題名。この題名には、英語の語源に詳しいと「ニヤリとできる」秘密が隠れています。おそらくは映画の製作者も自覚していないであろう秘密です。
……実はマネー(money)という言葉の語源を探っていくと、なんとその先には「怪物」すなわち「モンスター(monster)」が待ち構えている、というのです。といっても「マネーの語源がモンスターである」などという単純なお話ではありません。でもマネーとモンスターの間には、言語的な「縁」が間違いなく存在するのです。さて、それは一体どんな「縁」なのでしょうか。
最初に出会うのは「女神」
モンスター、すなわち怪物に出会う旅を始めるため、まずはmoneyの語源を探るところから始めましょう。
英単語moneyの語源を辿ると、まず古い英語であるmoneieという単語を発見することができます。このmoneieは古いフランス語から古い英語に伝わった言葉でした。このため現代フランス語でもお金のことをmonnaie(モネ)と表現します。そして古いフランス語のmoneieの語源が、ラテン語で貨幣や硬貨などを意味するmonēta(モネータ)という言葉でした。つまりmoneyの語源はmonētaということになります。
「このmonētaこそが怪物(モンスター)を意味するのです」となれば話は簡単ですが、そうはいきません。monētaが意味するものとは「怪物」ではなく「女神」なのです。
怪物に出会う旅でまず出会ったのは「女神」でした。
なぜ貨幣が「女神」?
では、なぜ「貨幣(monēta)」が「女神」なのでしょうか?
ラテン語で貨幣を意味するmonētaには、ほかにも「造幣局」という意味があります。古代ローマ(共和政ローマ)では、もともと造幣局をmonētaと表現していたため、そこで作られる貨幣・硬貨のこともmonētaと呼ばれるようになったそうです。実際、当時製造されたコインの中には「MONETA」という刻印が入っているものもあります。
では、なぜ造幣局がmonētaと呼ばれたのでしょうか。それには造幣局の立地が関係していました。実は当時、造幣局が置かれていた場所がMonētaと名付けられた「神殿」だったのです。
その神殿に祀られていたのは、ローマ神話における最大の女神で、June(6月)の由来ともなった「ユーノー・モネータ(Juno Monēta)」でした。つまり、女神Monētaの名を冠した神殿に造幣局が置かれたため、造幣局のこともmonētaと呼ばれるようになり、そこで作られる貨幣・硬貨のこともmonētaと呼ばれるようになったというのです。
ちなみに経済系のメディアでは、ときおり「モネータ 女神の警告」(日本経済新聞の連載記事)といった女神絡みの題名が登場することがあります。これはお金の語源を意識してのネーミングなのでしょう。