はじめに

女神の別名は「忠告者」

さらに「女神」から「怪物」までの道筋を辿るには、女神ユーノー・モネータの名前の由来を知らなくてはなりません。

ユーノー・モネータという名前のうち、本体の部分にあたるのはユーノーの方。もう一方のモネータの方は「添え名(そえな)」です。この添え名というのは、例えばコイン怪獣・カネゴン(特撮TV番組「ウルトラQ」に登場する怪獣)でいうところの「コイン怪獣」に相当する言葉のこと。言ってみれば、その人(というか怪獣や女神など)のキャッチフレーズやあだ名に相当する表現だと考えればいいでしょう。

そのカネゴン風にユーノー・モネータを表現すると「忠告者ユーノー」となるでしょうか。ラテン語で「警告する・忠告する」を意味するmonēre(モネーレ)が変化して、忠告者を意味するMonēta(モネータ)が誕生したわけです。

ユーノーが忠告者と呼ばれたのには理由があります。紀元前390年にローマが外敵からの侵入に遭った際、ユーノーを祀る神殿で飼われていたガチョウが騒ぎ出し、外敵の襲来を告げたという逸話が残っているのです(注:異説もある)。そこでユーノーには「忠告者」という添え名がついた、というわけです。

「怪獣」はお金の遠い親戚

Monēta(忠告者)の語源であるmonēre(警告する・忠告する)からは、別の英単語も誕生しました。例えばコンピュータの表示装置などを意味するmonitor(モニター)もそのひとつ。「何かを知らせる(警告する・忠告する)もの」だから「モニター」と呼ぶわけです。

そしてもうひとつ誕生したのが、今回の最終目的地である「怪物」、すなわち「モンスター(monster)」なのです。まずラテン語のmonēre(忠告する・警告する)から、「不吉な兆し」や「重大な兆し」を意味するラテン語mōnstrumが誕生。これが古い英語にmonstreという語形で伝わり、現代英語のmonsterに変化したといわれています。

ここでようやく、マネー(money)と怪物(monster)の「浅からぬ縁」が明らかになりました。この両者はともにラテン語のmonēre(忠告する・警告する)を語源に持つ言葉であったのです。

「警告・忠告」の意味

そもそも古代ローマの社会には「大きな厄災の前には怪物がやってくる」という考え方があったのだそうです。

その考え方に基づくと、厄災として警告される存在が「怪獣」であり、厄災を警告する方の存在が「女神」だった、とも言えるかもしれません。この「怪獣」と「女神」の両者が「警告する・忠告する」を意味するmonēreでつながっていたことになります。このうち怪物の方はモンスター(monster)という英単語になり、女神の方は巡り巡ってマネー(money)という英単語になったのですから、言葉というものは非常に面白いものですね。

そういえば前回の記事では「金は命の親、命の敵」(金で命を救われることもあれば、命を落とすこともある)ということわざを紹介しました。moneyの語源に隠れている「女神」や「怪物」にも、そんなお金の両面性が現れているように思われてなりません。

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