はじめに

4月は新入社員向けの研修や、新しい職場・役職での企業研修が重なる季節です。最近では「ファイナンシャルウェルビーイング」という考え方のもと、社員教育の一環として金融リテラシー向上に取り組む企業も増えてきました。

こうした場で講師としてお話しする際、筆者が特に新社会人の方にお伝えしているのは、「投資の前に、まず世の中の仕組みを理解すること」の重要性です。今回は、資産形成の土台となる「税制」「社会保険」「年金」の3つの仕組みを通じて、お金との向き合い方を整理してみたいと思います。


投資の前に「確度の高い仕組み」を味方につける

金融リテラシーというと、株式投資や投資信託といった運用の知識を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、それ以上に重要なのは、制度や仕組みを理解し、それを自分の生活にどう活かすかです。

例えば、投資信託は世界の経済に幅広く投資できる便利な商品ですが、基準価額は日々変動し、上がることもあれば下がることもあります。長期的に見れば経済は成長を続けると考えられていますが、その過程での値動きは誰にもコントロールできません。

一方で、「仕組み」に目を向けるとどうでしょうか。

NISA口座で投資した場合、現行制度では売却益が非課税となり、長期の資産形成において大きなメリットがあります。またiDeCoでは、掛金が所得控除の対象となり、税負担の軽減につながります。

運用成果は不確実でも、制度によるメリットは比較的見通しが立てやすいものです。「不確実なものに頼るだけでなく、確度の高い仕組みを味方につけること」が資産形成の第一歩だといえます。

給与明細から引かれている「社会保険料」の本当の価値

では、その仕組みの代表例である「給与」や「社会保険」についてはどうでしょうか。

給与は単なる収入ではなく、社会との接点でもあります。給与明細をよく見ると、健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険料が控除されていることが分かります。これらは負担と感じられがちですが、同時に日本のセーフティネットを支える仕組みでもあります。

例えば、医療費は原則3割負担ですが、高額療養費制度によって自己負担には上限があります。また、勤務先の健康保険組合によっては独自の付加給付が用意されている場合もあります。さらに、病気やけがで働けなくなった場合には傷病手当金が支給され、出産時には出産手当金も受け取ることができます。

会社員の場合、社会保険や雇用保険によって、一定の保障がすでに用意されています。まずは公的な仕組みを正しく理解し、不足する部分を民間の保険で補うという順番で考えることが大切です。

「年金は払い損」は本当か? 賦課方式の大きな誤解

さらに誤解が多いのが、公的年金の仕組みです。

年金は老後のためのものというイメージが強いですが、実際には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3つの保障が一体となった制度です。特に障害年金は、年齢に関係なく、病気や事故によって働くことが難しくなった場合に生活を支える重要な仕組みです。

厚生労働省が提供している「公的年金シミュレーター」を活用すれば、将来受け取る年金額の目安を簡単に確認することができます。働き方や収入の変化によって将来の年金額がどう変わるのかを視覚的に理解できる点は、大きなメリットです。

公的年金の給付は国民年金部分と厚生年金部分からなっており、特に会社員が上乗せで加入する厚生年金は報酬比例といって現役時代の収入によってその給付額が変動するのが特徴です。つまり公的年金シミュレーターで年金を見える化し、「年金はもらうものではなく、自らがつくるものである」と自覚を持つことが非常に大切なのです。

公的年金シミュレーターは先日リニューアルされ、万が一の時の障害年金の目安が確認できるようになりました。実際の受給のためには審査があるのであくまでも目安ではありますが、人生のリスクに備えるにあたり貴重な情報になると考えます。

また、公的年金制度は「賦課方式」と呼ばれる仕組みで運営されています。現役世代が納める保険料をもとに、その時々の給付を賄う仕組みであり、「支える人」と「支えられる人」の単純な人数比だけで成り立っているわけではありません。

皆さんも「少子高齢化で日本の年金は立ちゆかなくなる」理由として、昔は多くの若者が御神輿のように高齢者を支えていたが、若者が減る一方で高齢者が増えて、騎馬戦のような形になり、さらには一人の若者が肩車で高齢者を支えるようになるのだという話を聞いたことがあるでしょう。

一見すると、とても説得力があるように思いますが、ここには大きな間違いが潜んでいます。それは「賦課方式」は単純に若い人の数が分母で高齢者の数が分子ではないということです。

これについては、慶応義塾大学の権丈善一教授の「サザエさんがひっくり返す都市伝説(通念)」という動画を一度ご覧になってみることをお勧めします。サザエさん7人家族を支えるのは定年間近の波平さんとマスオさんのみですが、現代においては女性を含め多くの方がより長く働いている、つまり、少子高齢化は事実ではあるけれど、年金制度を支える就業者と非就業者の比率は今も昔もさほど変わりはないのだというお話です。

また保険料だけでなく税金や積立金の運用収益も財源となっており、「働いている人」が制度を支えているという点が重要です。こうした全体像を理解することで、年金に対する見方も少し変わってくるのではないでしょうか。

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