はじめに

サンマルクホールディングス(3395)が9月17日、人気うどん店「つるとんたん」事業を128億円で買収すると発表しました。翌日には株価が前日比2.38%上昇し、市場は好意的に受け止めています。一方で、直近の本業の決算は大幅減益と、決して楽観できる状況ではありません。この状況を投資家としてどう見るべきか、考えてみたいと思います。


帳簿価額12億に対し買収額128億。巨額「のれん」の仕組みとリスク

今回の取引は、サンマルクHDが9月30日付で新設する子会社「つるとんたん(仮称)」が、カトープレジャーグループ(KPG)傘下のケー・エキスプレスから、吸収分割で事業を承継する形です。効力発生日は12月1日を予定しています。対象は国内直営14店舗(つるとんたん13店舗、羽田百膳1店舗)、海外フランチャイズ2店舗、製麺・ギフト商品の販売事業などで、2026年3月期の売上高は約61億円、承継負債はゼロでした。

注目したいのは、承継対象の帳簿価額が約12億円にとどまる点です。差額の約116億円はブランド価値に対する対価、いわゆる「のれん」として計上される見込みです。

のれんとは、買収額が対象の純粋な資産価値(店舗や在庫などの帳簿上の価値)を上回った分の差額のことです。たとえば、資産としては12億円しかない八百屋を100億円で買うとしたら、差額の88億円は「その店の看板やお客さんからの信頼、ブランド力」に対して払っているお金、というイメージです。今回のケースでいえば、つるとんたんという名前そのものや、長年培ってきた人気・知名度に、それだけの価値が認められたということになります。

この”のれん”は、将来的に少しずつ費用として計上していく(償却する)会計ルールになっており、想定より事業がうまくいかない場合は一気に費用として計上する「減損」というリスクも伴います。今回、簿価に対する倍率にすると約10.5倍という水準で、会社側はのれんの金額や連結業績への影響を精査中としています。動いた資金の大部分は、店舗や設備といった目に見える資産ではなく、ブランド力や知名度という無形の価値に向かったことになります。

もっとも、飲食業のM&Aでは、のれんの比率が大きくなること自体はそれほど珍しくありません。飲食チェーンは工場や不動産を大量に抱える製造業などと違い、価値の源泉が「お客さんがまた来たいと思う理由」、つまりブランド力や接客ノウハウといった目に見えないところにあるためです。それでも今回、対価を売上高で割った倍率(約2.09倍)は外食業界の一般的なM&A相場と比べても高めだと報じられており、簿価に対する10.5倍という水準も強気な部類に入ります。これは、サンマルクHDがつるとんたんの「今後さらに稼ぐ力」に強い自信を持っていることの裏返しである一方、のれんが大きいほど、期待外れだった場合の減損リスクも大きくなるという点は、頭の片隅に置いておきたいところです。

なぜこのタイミングで買収したのか?

サンマルクHDは2024年に京都勝牛・牛かつもと村を傘下に収め、2026年5月には本社を京都へ移転するなど、日本食ブランドを軸にした和食ポートフォリオの拡充を進めてきました。今回のつるとんたん買収もその延長線上です。つるとんたんは店舗数こそ少ないものの知名度は高く、サンマルクHDのチェーン展開ノウハウや物件情報網を使えば、ゼロから新業態を育てるより早く出店を広げられます。すでに海外フランチャイズを2店舗持っている点も、インバウンド需要を海外展開の入り口につなげる狙いがありそうです。

一方の売り手KPGは、ホテル・旅館・レストラン運営を手がける非上場企業で、高級旅館「ふふ」などを主力に展開しています。

じつは、つるとんたん売却発表のわずか3カ月前、KPGは東京ソラマチに新店をオープンしたばかりでした。どう見ても攻めの姿勢だったブランドを、その直後に手放したことになります。なぜ、業績好調のブランドを手放したのでしょう?

KPGは以前から「店舗をこれ以上増やすつもりはない」と公言しており、今回も「現在の店舗数を最適なスケールとしていた」と説明しています。1店舗ごとに内装もメニューも変える手間のかかる経営スタイルを守り続けてきたからこそ、37年間ブランドを保てたという考え方です。つまりKPGにとって13店舗はすでに完成形で、それ以上広げる気はなかった、ということになります。

一方サンマルクHD側は、同じ13店舗を、もっと伸ばせるブランドと捉えました。全国出店のノウハウや物件情報網を持つ自社になら、KPGが到達しなかった規模まで育てられると判断したわけです。同じブランドを見ながら、売り手にとっては「天井」、買い手にとっては「まだ伸びしろがある」と見えた。つまり、育てる力と広げる力は別の専門性であり、それぞれが得意な役割を担う形になった、ウィンウィンの取引だったと言えそうです。

投資管理もマネーフォワード MEで完結!配当・ポートフォリオを瞬時に見える化[by MoneyForward HOME]