はじめに
投資を経験したことのある方であれば、一度は「モーニングスター」という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。投資信託の評価を中心に世界規模の金融情報を配信している、投資家にとっては“投信の伝道師”のような企業です。
そんな同社が1月24日、2017年度第3四半期(4~12月期)の業績を発表しました。これまで8年連続で2ケタの営業増益を続けてきましたが、今年度は第3四半期累計で1.8%の増益と伸びが鈍化。翌25日の株価も前日比で5%超の下落と冴えない展開となりました。
しかし、決算発表当日に開かれた説明会での朝倉智也社長の言葉は、自信に満ちたものでした。その裏側には、モーニングスターが描く“脱・投信依存”の大いなる野望がありました。
本業の儲けは1.8%増にとどまる
モーニングスターが発表した2017年度第3四半期の決算は、売上高が前年同期比23.9%増の43億3700万円、本業の儲けを示す営業利益が同1.8%増の11億7200万円でした。
過去8年に比べて利益の伸びが鈍かった主因は2つあります。1つは、モーニングスター単体の事業で大きな開発案件がなかったこと。もう1つは、「マネールック」というアカウントアグリゲーション(口座情報の一元管理)ツールの事業を売却したことです。
後者については、営業利益で5900万円分が剥落する形になりました。モーニングスター単体の営業利益も前年同期比で0.2%の増加にとどまり、利益の伸びが大きく鈍った格好です。
それでも、朝倉社長は強気の姿勢を崩しません。「一時的に伸びが鈍化していますが、心配はしていません」と言い切ります。
仮想通貨のスマホアプリをリリース
朝倉社長の強気の裏側には、2つの新規事業の存在があります。1つが、仮想通貨関連のビジネスです。
モーニングスターでは、昨年10月に仮想通貨のポータルサイトをリリース。各仮想通貨の値動きや時価総額のランキングなどの提供を始めています。「見られる回数は非常に増えており、メディアとしての価値も上がり、広告収入が伸びています」(朝倉社長)。
今後は「My仮想通貨」というスマートフォンアプリもリリースする予定です。仮想通貨ごとの損益管理や、仮想通貨同士のチャートの比較などができるようにします。
「仮想通貨専用のアプリはまだあまりないので、積極的に展開していきます。アプリ内課金の可能性も検討しています」(同)
さらに今後は、仮想通貨を使った新たな資金調達手段であるICO(新規仮想通貨公開)の格付けを公表する計画です。会社概要や資金調達計画などが記載されたホワイトペーパーだけでなく、経営陣やガバナンス、収益モデルや仮想通貨の安全性を総合的に評価して格付けするといいます。
日本にもジャンク債市場を創出
仮想通貨と並ぶもう1つの新規事業が、上場企業全社を対象にした、債券の勝手格付けです。
現在、S&Pやムーディーズ、R&Iなど国内外の5社が日本企業の格付けを行っていますが、これらの対象となっているのは多いところでも600~700社。日本で上場している企業は約3600社ありますので、5分の1にも達していません。なおかつ、これら5社の格付けは、いずれも債券の発行体から料金をもらったうえで、その発行体の評価をしています。
これに対して、モーニングスターの格付けは全上場企業が対象で、同社が勝手に格付け評価を行うという事業モデルです。朝倉社長がその先に描いているのは、欧米のようなハイイールド債(ジャンク債、高利回り債券)の市場創出です。
ハイイールド債とは、格付けの低い企業などが発行する債券のことで、投資適格債に比べると元本割れのリスクが高い一方、利回りは高く設定されています。上述のように日本では格付けを取得するのは大企業が中心だったため、ハイイールド債の市場は発達してきませんでした。
ところが、世界的に金利が低位で推移する中、「投資家はハイイールドの債券を一生懸命買っていて、米国のハイイールド債ファンドは飛ぶように売れている」(朝倉社長)のが現状です。
モーニングスターは昨年3月に債券格付けのための子会社を設立しています。今後は、今年4月をメドに、独自に構築した評価モデルを用いて、上場会社のうち、約1,300社の格付け情報をリリース。来年3月までに上場企業全社の情報を公表する予定です。
既存事業で狙う足場固め
「ICOも債券も投信も株式も、できるだけ多くの格付けが見られる総合的なデータベースとして展開していきたい」。朝倉社長の描く野望は壮大です。
その一方で、着実な足場固めも進めています。同社が展開しているロボアドバイザー(人工知能を活用した資産運用支援)ツールの導入企業は昨年末時点で18社と、1年間で3社増加。関連売上高は3割近く伸びました。
また、金融機関に提供するファンドレポートの受注本数は第3四半期までの累計で1,249本と、前年同期の3倍に拡大。関連売上高は7.8%増加しました。
どちらも段階的に提供内容を高度化していくビジネスで、導入当初は無料や半額だったりしますが、1~2年経つと通常料金にシフトするケースが多いそうです。また、これまでに受注している案件のほとんどがまだ初期段階ですが、サービスのフェーズが進むと、モーニングスターに入ってくる金額も大きくなります。
一方、金融庁からフィデュ―シャリーデューティー(顧客本位の業務運営)を強く求められる中で、各金融機関は顧客への提案営業の強化や取り扱う投信のラインナップ見直しなどを進めています。そうした観点から、「数字はまだまだ上がるポテンシャルがある」と朝倉社長は見ています。
雌伏の時期を終え、来期の飛躍につなげられるか。そのカギは、既存事業における足場固めと2つの新規事業の発展に懸かっていそうです。