はじめに
好みの多様化で指名買いが発生
2つ目の理由は、輸送事情の変化です。イチゴは傷みやすいフルーツで、以前であれば、収穫された後は近隣地域で消費され、各地域で“すみ分け”がなされていました。
しかし近年になると、8割ほど熟した果実を摘み取って低温輸送することで、福岡で収穫した「あまおう」を翌日には東京に届けられるようになったのです。これにより、国内各地のイチゴが全国規模でシェアを争う時代に突入しました。
3つ目に「日本人の味の好みの多様化」という背景もあります。とちおとめとあまおうは、それぞれ異なる特徴を持っています。とちおとめのスタンダードな大きさである2Lサイズは1粒15~25グラムとなっています。15グラム程度というのは、数ある品種の中でも結構小ぶりなサイズといえます。
一方、あまおうの2Lサイズは20~28グラムで、とちおとめよりも重量があります。ものによってはかなり大きく育つ品種で、2015年1月には1粒250グラムのあまおうが「世界一重いイチゴ」としてギネス世界記録に認定されています。
違いは大きさだけではありません。味や果肉の固さでも異なる特徴を持っています。
あまおうは果肉が少し固めで、果汁はジューシーそのものです。甘さと酸味がちょうど良いブレンドで、いちごの濃厚な味わいを楽しめます。一方、とちおとめはどちらかといえば柔らかめで、酸味はほんのり、甘さは強いです。
それぞれの特徴が異なるので、好みによって選ぶいちごが違ってきます。繊細な日本人の味覚がブランド指名買いを起こしていると考えられます。
国内市場は漸減、主戦場は海外に?
このようにブランドが乱立し、激しいシェア争いを展開していますが、国内全体で見たイチゴの出荷量はこの10年で減少しています(下図)。今後もこの状況が続くとなると、戦いに破れて姿を消してしまうブランドも出てくるかもしれません。
しかし、海外に活路を見いだすブランドもあります。それに伴い、2012年には2億円足らずだったイチゴの輸出額は、2016年には11億円超まで増えています(財務省「貿易統計」)。特にアジア諸国は贈答用にフルーツを送り合う文化があり、日本のフルーツブランドは高く評価されています。
ブランドイチゴのシェア争いは国内ではなく、今後は海外に向かうものと考えられます。この観点で見てみると、栃木県と九州勢でその差が明確になってきています。
九州勢の中でも福岡県、熊本県は海外販路の開拓に力を入れています。近隣アジア諸国はもちろん、福岡県は2016年からあまおうを米国へ輸出する体制を整えています。
TPPで試される国内勢のマーケ力
背景にあるのは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)です。TPPによって関税が撤廃されると、海外の農作物が今まで以上に国内に流入することが予想されています。その対抗策として、海外への販路を拡充することで地域の農家の競争力を高める狙いがあります。
今は収穫量でトップの栃木県ですが、他のブランドイチゴが海外で成果を挙げれば、王座を奪われる日がやってくるかもしれません。逆に、2016年の国内シェアで19位の大分県は、ベリーツを上手に活用することで上位5位に食い込んでくる可能性もあります。
これまでのイチゴ戦争では、美しさやおいしさといった「品質」をPRすることでシェアを拡大してきました。しかし、ベリーツのような新品種開発が相次ぐ中で国内需要が減少を続ければ、国内マーケットだけでは10年後、20年後の生き残りは難しいでしょう。そうなると、残されたフロンティアは海外マーケットということになります。
日本のフルーツの品質の高さは世界の人たちも認めるところではありますが、他国が輸出で稼いでいる額に比べるとまだまだ小さいのが実情。今後は、国内で独自の発展を遂げた日本産イチゴの魅力を海外に発信していくためのマーケティング力が試される局面になりそうです。