はじめに
商売柄、いろいろなところで講演をする機会が多いです。2月の初旬にも、あるところで講演をしました。講演のタイトルは「株は上がるものである!」でした。
そうしたら、講演の前日にニューヨークの株式市場が急落。ダウ平均株価は1,000ドルを超える史上最大の下げ幅を記録しました。間が悪いこと、このうえありません。しかし、講演のタイトルはすでに告知してしまっている以上、変更できません。
株が下がると非常に困るのです。なにしろ、こちらは「日経平均株価3万円」などと記者会見まで開いて、テレビのニュースにもなったり、週刊誌で報じられたりしているのです。レギュラーコメンテーターを務める経済番組の新春企画でも「今年の日経平均は3万円にいく」と目標株価を掲げてしまっています。今さら後に引けません。
しかし、こうなった以上、新しい予想を出すしかないでしょう。新しい予想、それは……。
日経平均100万円への道のり
「日経平均は100万円になる」
実はこれ、著名投資家ウェーレン・バフェット氏のパクリです。バフェット氏は、「ダウ平均は100万ドルになる。ただし、今後100年で」と述べています。投資の賢人、バフェットが言うなら間違いはないでしょう。
いやいや、バフェットとはいえ、間違うことはあります。ダウ平均は100万ドルになるでしょう。しかし、それには100年もかからないのです。50年前、ダウ平均は840ドルでした。それが今や2万5,000ドル。50年間で30倍になったわけですが、これを年率になおすと7%のリターンです(下図)。
今2万5,000ドルのダウ平均が100万ドルになるには、40倍になる必要があります。7%複利で40倍になるには、55年かかります。1.07の50乗が30で、1.07の55乗が40。ということは、年率7%のリターンを仮定すれば、55年でダウ平均は100万ドルに到達できます。
年率7%のリターンは現実的なのか
ここで2つのチャレンジが予想されます。1つは、過去のリターンが平均すると年率7%だったからといって、それを今後もそのまま適用していいのか、という問題と、仮に米国のダウ平均が100万ドルになったとしても、ずっと弱い日本の日経平均が100万円になる保証はない、ということです。
初めの7%のリターンについてですが、これこそが「株式という資産クラス」が生み出す本源的なリターンにほかなりません。過去50年の間には、ブラック・マンデーやITバブルとその崩壊、クレジットバブルとその崩壊であるリーマンショックなど、いくたびものバブルと暴落を経験してきました。そのうえでの平均です。
観察期間も十分に長い。本源的なリターンとして信頼に足るでしょう。また、この期間の平均PER(株価収益率)は約15倍であり、よってPERの逆数である益利回りは6.7%、約7%です。
益利回りは、その時点の株価で企業に投資すると、その企業は(配当などリターンの源泉となる)利益をいくら稼いでくれるかという尺度。つまり、株式投資の期待リターンの代理指標と見做すことができるでしょう。その意味で、米国株式は理論(期待)通りのリターンを実際のリターンで提供してきたといえます。
ちなみに某週刊経済誌の「平成を代表する経済書」1位に選ばれたベストセラー、トマ・ピケティ著『21世紀の資本』でも、株式の平均長期収益率は7~8%であるとの記載があります(『21世紀の資本』p57)。これは僕がさっき本屋で立ち読みして確認してきたので間違いありません。600ページを超え、5500円もする本を僕が読めるはずがありません。僕が読んだのは『マンガ・ピケティ入門』です。
リーマン後の日米株価は相似形に
2つめの日経平均も100万円になるか、という問題についても、YESと言えます。確かに日経平均は1990年以降、20年にわたって右肩下がりで推移してきましたが、それは1980年代バブルがあまりに強烈で、その清算に20年もの歳月を要したからです。
実は2000年代に入ってからは、1980年代バブルの調整は済んでいました。リーマンショック後の大底以降は、日本株も米国株もほぼ同じような軌道を描いて上昇しています(下図)。
たとえば10年前、2008年末の日経平均は8,859円、ダウ平均は8,776ドル。ダウ平均は2017年末には2万4,000ドルになりましたが、日経平均だって年初に2万4,000円台をつけました。今後も両者は、時には乖離も広がるかもしれませんが、長期的に均せば7%程度のリターンで右肩上がりに推移するでしょう。
冒頭の、僕の新しい予想を正確に言い直しましょう。「日経平均は100万円になる。ただし2073年(55年後)に」。僕は今年55歳になります。2073年、僕が生きていれば110歳。立派な大人として今度の予想が外れたら責任をとる覚悟です。55年後、日経平均が100万円になっていなければ、死んでお詫び申し上げます。
(文:マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆)