はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

私は昨年、新社会人としてスタートしました。月の手取りが約21万円、家賃4万7千円で、保険は会社の社会保険のみ加入している状況です。深いことは考えずに、毎月の収支はプラスマイナスゼロ、ひどいときはカード会社からキャッシングローンを借りて生活をしていました。ギリギリの生活をしていたなか、国の難病指定になる病気にかかり、現在も治療のため入院しています。

運良く、入院前に約50万円ほどの夏のボーナスが入ったことと、親の援助も受けつつ、高額療養費を利用して、今は入院費を支払っています。今月末には退院できると思うのですが、それ以降も難病のため「すぐの仕事復帰は難しい」と医者に言われています。

それまでは会社の保険から月に13万円ほどの傷病手当金が振り込まれる予定なので、それを生活費や入院費に当てるつもりです。現在利用している高額療養費で支払った入院費は難病の特定疾患認定証が交付されれば、還付金として払い戻しができるそうです。

しかし、いつ特定疾患の認定証が交付されるかもわからず、交付後も改めて還付金のための申請を出さなければいけないため、現段階ではその資金に対して、あまり大きな期待はしておりません。これにプラスして、現在月1万5千円のキャッシングローンの返済もしていま

現在はお恥ずかしながら両親に金銭面での援助をお願いしている状況ですが、今後仕事復帰をした際には、改めて自分の資産について考え直し、人生プランを再設計したいと考えています。長くなってしまいましたが、生活が落ち着いて元の職場に戻ったら、今後は定期預金等などで貯金したいと考えています。不明瞭な質問になってしまい恐縮ですが、資産運用など今後どのようにプランを組めばよいか、アドバイスいただけたら幸いです。

ちなみに現在の職場では、夏と冬にボーナスが支給されます。通常は70万円ほどです。今は病気のこともあって難しいですが、30歳を過ぎたら民間の保険にも入れると聞いたので、保険加入も視野に入れています。
(20代前半 独身 男性)


野瀬 :なかなか大変でしたね。 しかし、やさしいご両親、理解のある会社でとりあえずは良かったと思います。

20代で考えるマネープラン

「20代がどのようなマネープランを持つべきか」という点ですが、まず質問者の方の前提を整理してみましょう。

まず収入ですが、これは新社会人をスタートしたばかりで手取り21万ですので、かなり恵まれているといえます。

加えてボーナスも夏に50万円、冬に70万円も入るそうなのでかなりの良い会社であることが推測されます。

昨今は病気でしばらく休んだだけで不当解雇をするような会社も増えていますので、金銭面以外でも非常に手厚い会社と考えらえます。会社にはしっかり感謝してください。

次に支出です。家賃についても問題は見受けられません。住む場所にもよると思いますが、都市部であれば4.7万円という家賃は決して高くはないでしょう。仕事場の近くに住む傾向にある20代であれば、これで良いと思います。

よく「家賃は給料の3分の1で」といわれますが、私はこの都市伝説を信じていません。

おそらく高い手数料がほしい不動産業界や、高い家賃がほしい大家さんの要望によるものです(笑)。個人的には「手取の4分の1で」あるべきだと考えているのですが、質問者の方は見事にこの条件もクリアしています。

家計管理はダイエットと同じ

となると、気になるのが「どうして毎月の収支がプラスマイナスゼロ、下手をしたらマイナスになるのか?」という疑問です。情報がないので、勝手に以下のように予測してみました。

給料 :+21万円
家賃 :▲4.7万円
水道光熱費 :▲1.5万円
食費・日用品(外食含む):▲5.0万円
ネット+スマホ :▲1.5万円
衣服 :▲2.0万円
交際費、趣味、その他 :▲4.0万円

目一杯使っても、こんな感じではないでしょうか。これでも毎月2万円の貯金、もしくはローンの返済ができる計算になります。

となると、明らかに何かのお金遣いが継続的に間違っています。旅行や結婚式などのイベントで、ひと月だけマイナスになることはよくありますが、継続的にマイナスになっているのは根本的にお金遣いを見直す必要があります。

若い方の場合たいがいの支出の間違いは「家賃」と「保険」なのですが、質問者の方の場合それはクリアしているので、それら以外の支出金額を見直すようにしてください。

私の経験からのおすすめ方法は、上記の支出を「予算」として月初めに口座から降ろしてしまい、用途別に封筒や財布に入れます。そして、その予算以外には「使わない!」とすることです。大事なのは月初以外ATMに行かないことです。

具体的には、口座引き落としであろう「家賃」「水道光熱費」「ネット+スマホ」以外の、「食費・日用品」「衣服」「交際費等」の金額を月初に引出し、すべて封筒に入れてしまうという方法です。

最初は苦しいですが、予算を守って3カ月ほど生活すると、自然とこの予算の中で生活できる体質になります。

これはダイエットと同じで、最初は週2回走るだけでも苦しく感じますが、3カ月続ければまったく苦しくなくなります。こうして、せめて月2万円以上はお金が貯まる体質に切り替えてください。

私自身この方法で、湯水のごとく使っていた支出が半分になりましたので、ぜひ質問者の方も試してください。

「ボーナスで埋め合わせはしない」が家計管理の鉄則

また、付け加えますが「ボーナスで生活費の埋め合わせを」という発想は危険です。ボーナスはその性質上、会社の業績が悪くなるとゼロになるものです。

家計管理の鉄則で「固定費を変動収入でまかなわない」というものがあります。手に入るかわからない不確かな収入で、確実な出費をまかなおうと思ってはいけないのです。

またキャッシングも直ちにやめてください。「病気などで致し方なく……」であれば、理解できないこともないですが、金利が高いことはもちろん、あの手のものは「クセ」になるので早いうちに完済してください。

これも私の個人的な考えですが、キャッシングをはじめ「ものすごくテレビCMを見るものは基本的に買わない」という方針があります。特に便利でもないのに、ガンガンテレビCMを打つものというのは、基本的に「売り手がどうしても売りたいオイシイ商品」です。

売り手にとってオイシイ商品は、買い手にとってはオイシクナイ商品なので、私は買い物の時に、この「あまのじゃくメソッド」を心がけるようにしています。

20代は運用で増やすよりも勉強の時

毎月2万円貯めていき、これがある程度の金額になったら勉強を兼ねて運用を考えるとよいでしょう。

私は、20代のうちは運用でお金を増やす必要はないと思いますが、運用の勉強はするべきだと思っています。幸か不幸か金額もまだ小さいですので、少額の株か投資信託を購入するのが良いと思います。

まずは自分の好きな企業の株でもよいですし、わからなければ海外投資をある程度取り込んだバランス型の投資信託を少しずつ買い増していくのが良いでしょう。30代40代に備えて、勉強を始めるのは早いほうがよいので、とりあえず口座を作ってみましょう。

最近のネット証券は、自分の好みの銘柄を検索してくれる機能も充実しているので、このあたりを楽しみながら探すと良いでしょう。

「何をするにもお金がいる」のが人生

毎月の蓄財が2万円と少ないので、正直ボーナスは全額貯金しておいたほうがよいです。難病の種類にもよりますが、今後の治療にもお金がかかる可能性があるならば、ある程度の貯金があった方が精神衛生上よいでしょう。

まずは、株や投資信託以外に3年程で300万円の貯金を作ることを目標にしてください。

そして、その後も継続して貯め続け、300万円を超える部分は人生の節目節目で必要なお金に充ててください。

結婚、住宅購入、転職・海外留学・資格試験、独立などです。また300万円が貯まった後、その時点で投資に興味が出たら、たとえば夏のボーナスだけは運用に回すというのもアリだと思います。

「人生お金じゃない」と言う人もいますが、正直「何をするにもお金がいる」のが人生です。「今こんなことがしたい!」と思った時にきっちりお金が準備できるようにするべきです。

そしてもう1つ、「ただ貯める」というのは非常に苦痛ですので、最初の300万円の貯金以外の積み増し分については「何に使うか」という点をある程度イメージしておいてください。

「将来こんなことがしたい!」とか「こんな家が買いたい!」など、漠然とでいいのでイメージを持つと良いでしょう。節約や貯金も苦しくなくなるはずです。

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