はじめに

沿線ではなく駅で選ぶ傾向

井出氏の指摘するもう1つの変化が、”線(沿線)“ではなく“点(駅)”で選ぶ傾向が強まっている点です。「東急沿線や山手線の駅に住みたいというより、この街(点)に住みたいというニーズが高まっているようです」(同)。

では、選ばれやすい“点”とは、どういうものなのでしょうか。具体的には、ターミナル駅あるいは2路線以上が乗り入れている駅で、商業施設が集積している街。ここでも、実利重視の傾向が強まっているようです。

こうした傾向がより強く反映されているのが、「穴場だと思う街」ランキングです。「40代以上は土地や不動産価格のヒエラルキーで見ていますが、若い世代はまだ家選びに切迫感がないため、夢や希望が大きく出てしまう。若い世代の本音は『穴場度ランキング』に出ています」(井出氏)。

こちらでは、北千住と赤羽が不動のワンツーだった一方、2016年にはランク外だった大宮が4位にジャンプアップ。蒲田も27位→16位→8位と急激に順位を上げてきています。

「大宮は新幹線も止まる“北の玄関口”で、商業施設も多く、利便性が抜群に良い。蒲田も京浜東北線や東急池上線などが利用できる割に、家賃や不動産価格が手頃な点が評価されたのではないでしょうか」(井出氏)

こうしたエリアは、かつては歓楽街や工業地帯だった場所で、ディープなイメージの強い土地柄でした。そのために過小評価されていた部分があるといいます。しかし、近年の地価上昇や居住者の志向の変化に伴って、「住んでもいい街」に変化してきました。

そのきっかけの1つとなったのが東京スカイツリーの開業だと、井出氏は言います。「スカイツリーをきっかけに、下町ブームが起きました。ディープな店が多くて、物価も安い。勤務先や学校にも、すぐに行ける。名より実を取る傾向が強まっています」。

硬直化するブランド住宅街

「住みたい街」ランキングに話を戻しましょう。3位にランクインした吉祥寺も年代別に見ると、40代からは2位の支持を受けましたが、20代では6位にとどまりました。横浜が各年代で1位だったのと比べると、対照的です。

「ブランド化しているエリアは、家賃が高すぎて、住民の入れ替えが起こりにくいです。そうなると、街として硬直化していまいます」(井出氏)。もしかすると、吉祥寺もそうした局面に差し掛かっているのかもしれません。

そして、こうした傾向は自由が丘や下北沢(27位→26位→37位)といった、他のブランド住宅街にも現れているようです。イメージだけではなく、自分にとって実際に住みやすい街かという視点を考えると、家選びの選択肢の幅はグッと広がるのかもしれません。

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