はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

2021年に住宅ローンの半分、変動金利分を完済したいと考えています。その後、自宅を賃貸に出して、近くの賃貸マンションに住もうと考えています。そうすると、今の家の返済は半分になるので、住宅ローンの負担が少なくなり、空室の時でも収支が辛くないと思っています。

しかし、繰上げ返済をすると手元の現金が減るため、子供の教育費や、もしもの時が心配です。どのような基準で早期返済したらいいのか、アドバイスをいただけると嬉しいです。

私の現状の考えでは、給与収入で貯蓄できる現金は手元に置き、その他の収入をすべて繰上げ返済に充てようと考えています。このような考え方で、よろしいでしょうか。たとえば手元の現金が400万円に到達したら、それ以上はすべて繰上げ返済にあててしまう方が良い、などのアドバイスをいただければ幸いです。

〈相談者プロフィール〉
・男性、40代前半、既婚、妻(専業主婦)、子供2人(小1・3歳)
 ※子供は2人とも、中学から私立に行かせたいと思っています。
・住んでいる地域:東京
・世帯年収:給与1,240万円(額面)、本の印税や講座制作費などで230万円
・毎月の支出目安:月50~60万円、年1回の海外旅行費:50万円
・貯蓄:給与収入から支出を引いた額を貯蓄に回しています(月10~50万円)
・資産:現預金300万円、投資信託200万円、FX200万円、確定拠出年金100万円
・負債:住宅ローン3,450万円(変動と5年固定で2分割。1年前に低金利のネット銀行に借り換え)


野瀬: うーん、ちょっと分かりにくいところがあるので、まずは状況を整理してみましょう。

まずは総資産から負債を差し引いて、現状の確認を

収入支出面から見ると、給与収入が年1,240万円なので、手取りに換算すると950万円ぐらいでしょうか。副業収入は、形態的にあまり経費がかからなさそうなものなので230万円として、合計の手取りは年間で1,180万円といったところだと思います。

一方、支出は月あたりの平均で、55万円の12カ月分+50万で年710万円あたりでしょうか。

そうなると、単純に考えて、毎年の余剰金は470万円となります。何年かに一回の臨時の支出もありますので、キリのよい450万円を年平均の貯蓄額としましょうか。こちらは、同世代と比べるとかなり良い水準といえます。

また資産面は、現預金が300万円、投資額が合計で500万円といったところでしょうか。

また、所有されている不動産の時価についての情報がありませんが、都内で家族4人で暮らせるところということで、4,000万円ぐらいだと想定します。(実際はもう少し値上がりしていると思いますが、売る気はないと思いますので、これくらいにしておきます)

そう考えると、資産の総額から負債を差し引いた資産額は1,350万円となり、不動産が寄与している部分は多いですが、40代前半で収入や支出の状態の良さを考えると、まずまずの状況かと思います。

家計余剰金をすべて住宅ローン返済に回すと……

ご質問者が目標とされている「2021年にローンの半分」というのは、450万円という毎年の家計の余剰資金をすべて返済にあてるという意味合いかと思いますが、450万円の3年分は1,750万円であり、ローンの半分も1725万円であるため、理にかなった合理的な目標だと言えます。

また、お聞きした内容から保守的に分析しても(副業収入は年150万円が60歳まで、給料も昇給なし、退職金なしという条件)、基本的にご質問者が老後に破綻することはありませんのでご安心ください。

ただ、すでに今の状態で生活費が高いことや、お子さんを中学から私立に入れるとのことですので、現在のシミュレーションでは65歳時点で老後資金6,000万円を超えるあたりになり、億を超えるような大きな余裕がある家計でもないという結果となります(もちろんこの予想は保守的なものですが……)。

ローン返済中に賃貸に出すのはNG?

繰上げ返済は、その効果に強弱はありますが、金利負担が減ることは間違いありませんので、資金に余裕があるのであれば実施したいところです。

ただし、ご質問者の場合、今の家族構成から考えて、やはり預金金額が少し心許ないのが実際のところです。資産面は手厚いですが、内訳の大部分が処分が難しい不動産のため、やはりもう少しだけ現預金を手厚くしたい気もします。

ただ一点、「住宅ローン支払い中の物件を賃貸に出す行為」ですが、こちらは基本的に銀行サイドから見ればNGです。転勤や介護など、やむを得ない事情がある場合はOKになるケースもありますが、こちらを銀行に相談すると、その時点で一括返済を求められる可能性もあります。

そのため、賃貸に出すのであれば、ローン返済後が無難です。ですから、私のほうでは今の家を賃貸に出すのではなく、そのまま住み続け、固定分のローンも完済したあとで賃貸に出すという形で、85歳までのシミュレーションを組んでみました。パターンは以下の2つです。

(1)450万円ずつ3年間で繰上げ返済
(2)230万円ずつ7年半で繰上げ返済

そうすると当たり前ですが、この3年間で450万円ずつ繰上げ返済してしまったほうが、老後資金に百万円弱の余裕がでるようになりました。また、シミュレーションでは、どちらの選択肢でも、キャッシュフロー上は危ない橋を渡るタイミングはありませんでした。

ただ、(1)の場合、最初の数年の預金水準が300万円から400万円で推移するところが心許ないです。しかし、ご質問者の場合、もともと給与所得が多いので、何かの事情で急な支出が発生しても、そのタイミングで繰上げ返済を延期すれば問題は生じません。

教育費がかかるタイミングと住宅ローン控除を考慮して

まとめますと、ご質問者は所得が手厚いので、どちらの選択肢でも老後資金などで行き詰まることはないでしょう。(1)のほうがわずかばかりは得なのですが、効果は100万円もないので気にしなくて良い程度です。最初の3年間の預金残高の低さも、所得の高さでカバーできるでしょう。

となると、あとは好みの問題なのですが、私個人的には(1)の3年間で返済してしまったほうが良いと思っています。金利が変動である点もそうですし、お子さんにどんどんお金がかかるタイミングが来る前に、負債を極力減らしておきたいからです。

あと判断基準に加わるとすれば「住宅ローン控除」の問題でしょうか。

今の家にいつからお住まいかの情報がなかったのですが、一定の要件を満たしていれば住宅ローン控除が使えますので、一気に返済してしまうと、税務上の恩恵が受けられなくなり、もったいないことになります。結論としては、住宅ローン控除が受けられるなら(2)、それ以外なら(1)ということになるのではないでしょうか。

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