各国語で「割り勘」を意味する言葉を紹介する記事の後編です。前編では外国語の割り勘を紹介しましたが、今回は日本語の割り勘について紹介しましょう。

前編で紹介した通り、外国語の割り勘表現には「オランダ式」(英語のDutch treat)や「アメリカ式」(南米スペイン語のa la Americana)といった具合に「他地域を引き合いに出す」表現がいくつかありました。実はこのような「何かを引き合いに出す表現」は、日本語の割り勘表現にも登場します。さて日本語にはどんな割り勘表現があるのでしょうか。


似た概念は「室町時代」に登場していた

そもそも日本語で、割り勘を意味する言葉が登場したのは、いつ頃なのでしょうか?

割り勘に似た概念のなかで、比較的古いと思われるのが「各出(かくしゅつ・かくすい)」という言葉です。これは室町時代の末期には登場していた言葉で「各自がそれぞれ、金品を少しずつ出し合うこと」を意味したのだそうです。ただしこれは、飲み会の支払いに限った概念ではなく、均等割を意味するわけでもありませんでした。

また「醵」(きょ)という漢字もあります。もともとは「みんなで金品を出し合って飲み食いする」ことを表しており(酒に馴染み深い「酉偏」にその名残がある)、それが転じて「金品を出し合う」という意味を持つようになりました。

その醵を使った「醵金」(きょきん)「醵出」(きょしゅつ)「醵集」(きょしゅう)などの熟語が、明治時代によく使われていたようです。「必要な金を集めること」や「出すこと」を意味します。このうち醵出は「拠出」(きょしゅつ)と表記をかえて現在まで生き延びています。

つまり単純に「金品の各自拠出」を意味するだけの言葉は、少なくとも室町時代以降に登場していたわけです。

飲食限定の拠出は「江戸時代」以降か?

一方、飲食限定の概念ということであれば「集銭出」(しゅせんだし)や「集銭」(しゅせん)という言葉がありました。おおむね江戸時代に使われていた言葉です。また集銭によって購入した酒を意味する「集銭酒」(しゅせんざけ)という言葉もあったそうです。このあたりが、現在の割り勘に近い意味になるかもしれません。

また全国各地に「めおい」「めえおい」「めだし」「めざし」などと呼ばれる風習も残っているのだそうです。これは、おそらく「銘々(めいめい)が負う」「銘々が出す」という表現が変化したもの。基本的には近所同士で酒や食べ物を持ち寄り、酒宴をひらく風習を指します。これも割り勘に近い意味かもしれません。ただし言葉・風習の登場時期については、筆者の調べた範囲では、よく分かりませんでした。

ともあれ飲食限定で「金品の各自拠出」を表す言葉は、少なくとも江戸時代には登場していたことになります。

割り勘の創始者とされる「江戸の有名作家」

では「飲食代を均等割する」習慣はいつ誕生したのでしょうか? 定説としてよく知られるのは、江戸時代末期の浮世絵師で戯作者(げさくしゃ=作家)でもあった山東京伝(さんとう・きょうでん)を始祖とする説です。江戸文化に興味がないとピンとこない名前かもしれませんが、山東京伝は「善玉」(ぜんだま)と「悪玉」(あくだま)を擬人化したキャラクターが登場する娯楽本を著したことでも知られます。

そんな京伝は――これはクリエイターの性なのでしょうか――相当な遊び人だったのだそう。その一方で、金勘定には非常に細かい所があったともいいます。実際、友人などと宴席を持った際も、その費用を頭割りしていました。これが一般には「割り勘のルーツ」とされています。

「京伝流」なる表現も登場しました。京伝の食客(しょっかく=居候)でもあった戯作者・曲亭馬琴(きょくてい・ばきん=滝沢馬琴としても知られる)が「茶店の祝儀を均等割で支払うことを仲間内で『京伝流』と言った」との逸話を書き残していました(参考:「意匠」作家としての山東京伝、中崎昌雄、中央大学教養論叢、第27巻第3号)。

つまりこの場合、割り勘表現の引き合いとして「山東京伝」が登場したことになります。