はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する伊藤英佑氏がお答えします。

20代のときに、親と折半で1,600万円の中古マンションを購入しました。名義は父で、現在、毎月4万円を父に家賃として支払っています。固定資産税、管理費、火災保険は父が支払っています。ローンは残っていません。

父が70歳になるので、名義を私に変えた方がいいのか悩んでいます。もし名義変更をしたら、私が贈与税を支払わなければならないのでしょうか。実質800万円以上は父に払いましたが、マンションを購入する際に父だけの名義にしているので、実際に支払ったという証明ができない状態です。父が亡くなるまで、4万円を払い続ける方がよいのでしょうか。今後の手続きは、どうしたらいいのでしょうか。

〈相談者プロフィール〉
・女性、39歳、未婚、一人暮らし
・職業:会社員
・居住形態:持ち家(マンション)
・手取りの世帯月収:15万円
・毎月の支出目安:15万円


伊藤: ご質問ありがとうございます。

結論から言えば、きちんと事実関係を整理し、適切に対処をすれば大事には至らないかと思われます。税務署の指摘などで無用な課税等の負担を負うことにならないように対応しましょう。

購入時の取引実態と登記の権利関係の確認を

ご質問では「親と折半で1,600万円の中古マンションを購入」「名義は父」ということですが、折半で購入した不動産の名義は半々の共有になっているはずです。話が整合しませんので、まずはこちらの事実関係の整理が必要になります。

不動産を購入すると、誰が所有者であるかを法的に第三者に示すために「登記」を行います。「名義は父」とのことですので、登記上の所有者は父親1人になっているのだと思います。

一方で「親と折半で1,600万円の中古マンションを購入」とのことですが、これを文面通りに受け取ると、質問者と父親が800万円ずつ資金を出してマンションを購入したということになります。その場合、購入時の不動産売買契約書も質問者と父親の連名で契約を締結しているはずです。

更正登記の手続き、または真正な登記名義の回復の登記手続きにより、所有権を質問者と父親の半々に修正できる可能性があるでしょう。

ただ、手続きによっては、前所有者の押印等も必要になることがあり、印紙や登録免許税等の費用もかかります。詳細については、司法書士に相談すると良いでしょう。

父親が購入した物件に居住し、家賃を払っていたなら?

もっとも、購入時にどのように資金負担をしたのかによって、課税関係も変わってきますので注意が必要です。

質問者が購入時に資金負担をせず、契約当事者ではなかったとしたら、実態は父親が購入した不動産に居住し、家賃を支払っていたということになるでしょう。

ご質問いただいたケースの場合、質問者が父親から800万円の資金を借りて共同で購入し、その代わりに「月々4万円」の支払をしていたということも考えられます。

「家賃として」でしたら、父親は毎年、不動産所得を確定申告で申告しているはずです。ただ、借入の返済という認識でしたら、貸付と借入の返済は所得ではないですし、個人の親子間では利子を取らなくてもおかしくないでしょう。

もし、そうであれば、質問者はすでに「実質800万円以上は父に払いました」とのことですから、当該事実を示すことを事後確認の覚書などで書面に残しておけば十分でしょう。

日付を遡って契約を締結させるような書面は作成せずに、素直に行動した方が良いでしょう。家族間であれば、口約束のみでお金の貸し借りをするのはおかしなことではありません。

「月4万円」は、今後も払い続ける必要がある?

「月4万円の支払いを今後も続ける必要があるか」は話し合いでしょう。

所有権が半々の不動産を、生計一親族である父親が固定資産税、管理費、火災保険を負担していても問題はありません。

固定資産税、管理費、火災保険は父親が支払っており、ローンもないとのこと、親子間で無償で不動産を借りて居住の用に供することを「使用貸借」と言います。

使用貸借であれば、特に問題はありません(相続税の関係で適正な家賃を支払っている賃貸借の方が有利になる可能性はありますが、話がややこしくなりますので、ここでは省略します)。

相続時に名義変更した方がおトク?

父親のその他の財産状況が、そもそも基礎控除である「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」を満たさないようでしたら、相続税は掛かりませんので、相続時に相続として名義変更する方が費用は安くなります。売買等より、相続による名義変更の方が手続費用が安くなるためです。

そのような場合は、慌てて名義変更する必要はないとも考えられます。

上記の説明のように、資産状況等による前提条件により、何をどう進めていくと良いかは変わってきます。

正確に情報を整理し、どうしたいのかを明らかにして、ゴールの設定をしましょう。そのためにはどのような対処策がいいかを総合的に検討し、実行すべきかを考える必要があります。情報を整理した上で、不明点は専門家に確認しながら進めていただければと思います。

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