はじめに
「経済効果」の○○ノミクス
さて○○ノミクスにおいて、「経済政策」と双璧をなす存在が「経済効果」を表す言葉たちです。前述したアマノミクス(あまちゃんの経済効果)に相当する言葉のことです。この分野には、近年、どんな○○ノミクスが登場しているのでしょうか?
昨年の大相撲で、日本出身力士として19年ぶりの横綱になった稀勢の里(きせのさと)。現在では怪我に苦しみ休場が続いていますが、昨年の今ごろはその経済効果が「稀勢ノミクス」と呼ばれるほど注目を集めていました(参考:デイリースポーツ2017年5月13日「稀勢ノミクス急騰ストップ高 史上最多場所前懸賞金が608本!」)。
また昨年から注目されるようになった人物といえば、もうひとり将棋の藤井聡太・七段(2018年5月18日現在)もいます。いわずもがな、プロデビュー直後に29連勝という公式戦連勝記録を樹立した棋士ですね。彼の活躍に伴う経済効果を「フジイノミクス」と呼ぶ識者やメディアもいくつか現れました(参考:zakzak 2017年7月11日付け「藤井四段の人気、将棋界は生かせていない! 経済学者が提言する『フジイノミクス』」)。
このほか、SMAPの元メンバーである稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人について、事務所独立後の活躍ぶりを表現した「地図ノミクス」(3人の公式サイト名などが「新しい地図」であることから)など、この種類の命名も数多く存在します。今後しばらくは、経済効果型の○○ノミクスもたくさん登場することでしょう。
新種!「経済論・経済学」の○○ノミクス
このように○○ノミクスという命名には「経済政策」と「経済効果」という二種類の応用分野がありました。ところが2013年ごろは存在感が薄かった、新しい応用分野も登場しています。「経済論・経済学」の分野です。
例えば『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明、マガジンハウス、2017年11月)というマンガ本があります。これは書名どおり、行動経済学(人間による非合理的行動の分析を軸に展開する経済学)をテーマにしたマンガ。筆者がやや乱暴に解釈するなら、行動経済学そのものを「ヘンテコノミクス」(人間のヘンテコな行動を分析した学問)と呼んでいるようにも思えます。
このほか中南米の麻薬経済をあらわす『ハッパノミクス』(参考「ハッパノミクス」トム・ウェインライト著、千葉敏生訳、みすず書房、2017年12月)や、アマゾンを始めとする巨大IT企業のデータ戦略を論じた『アマゾノミクス』(参考「アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える」アンドレアス・ワイガンド著、文藝春秋、2017年7月)など、さまざまな事例が登場しています。
上記のいずれにも共通するのは、アベノミクス以前であればヘンテコ・エコノミクス、ハッパ・エコノミクス、アマゾン・エコノミクスなどと表現されていてもおかしくない「経済論」であることでしょう。それだけ(日本では)「アベノミクス」という言葉の影響力が高いともいえます。
――ということで今回は「ここ最近の○○ノミクス事情」を分析してみました。流行語の世界では、時折「造語法のブーム」も起こります(例:○○ガール、○活など)。そしてそのようなブームは、一度気流に乗ると、数年から十数年のレベルで存在感を保ち続けることになります。○○ノミクスも、どうやら「息の長いブーム」となったようです。
(写真:ロイター/アフロ)