はじめに
本来の勧進とは「仏道を勧めること」
しかしながら勧進の本来的意味は、募金・募資ではありません。本来は、仏道を勧めることを意味するのです。例えば広辞苑(第七版、岩波書店)では、勧進の一番目の意味として「人々に仏道をすすめて善に向かわせること」、ブリタニカ国際大百科事典(ブリタニカ・ジャパン)は「元来は、仏道精神に励むことが功徳になるということを人に教えて、仏道に入ることをすすめるという意味」と説明しています。
勧進を含む複合語のなかには、この意味の勧進が登場する語もあります。例えば念仏を勧めることは「念仏勧進」、写経を勧めることを「勧進写経」とも呼びます(ただし勧進写経には、写経担当者に給料を払うための募金という意味もあった)。
もっとも勧進が募金・募資を意味するようになって以来、世間でのイメージが仏教から離れていったことも事実。なかには僧侶に紛れて「物乞い」を行う者まで現れてしまったので、勧進という言葉には物乞いという意味さえ加わってしまいました(広辞苑・第七版では、勧進の三番目の意味として登場)。熊本県民謡として知られる「五木の子守唄」では「おどま勧進勧進 あん人たちゃよか衆 よか衆よか帯よか着物」という歌詞も出てきますが、この勧進が実は物乞いの意味。意訳すると「私たち小作人は物乞いのように貧乏だが、あの地主たちはお金持ちで良い物を着ている」となります。
そうやって意味が一人歩きしてしまった言葉ではありますが、あくまで勧進の本来的な意味は仏道を勧めることにあるのです。
本来のチャリティーとは「慈愛・博愛」のこと
では、チャリティーの本来的意味とは何なのでしょうか?
チャリティー(charity)といえば、日本でもチャリティーライブ、チャリティー番組、チャリティーバザーなどの言葉が知られますね。いずれも募金目的の企画を意味しいています。近年ではチャリティーラン(募金目的のマラソン・駅伝などの大会)などの言葉も聞くようになりました。
このcharityという言葉は、大本をたどると、キリスト教で言うところの慈愛・博愛・人間愛・隣人愛にいきつきます。ラテン語で高価・尊厳・慈愛などを意味するcāritāsが語源。英語のcharityも本来は慈愛などを意味しており、そこから派生して寄付・浄財なども意味するようになりました。
ここまでの話を大きくまとめると「勧進が仏教の言葉で、チャリティーはキリスト教の言葉」となります。したがって勧進とチャリティーには「宗教的価値観から派生した寄付の言葉」という共通点があったわけです。
これ以外にも、イスラム教に「ザカート」(Zakat)という概念があるのだそう。ザカートの実質的意味は貧者救済を目的とする喜捨制度ですが、本来的意味は浄め(きよめ)であるといいます。
募金(またはその裏返しとしての寄付)という行為が、いかに宗教的価値観と不可分の関係であるのか。そのことを、いろいろな言葉の語源からうかがい知ることができます。