はじめに
給与計算ミスによる賃金過払いの場合
なお、給与計算ミスによって賃金過払いがあった場合、その分を翌月の賃金から控除することは、労使協定がなくても原則として賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)に反しないとされています(これは「調整的相殺」と呼ばれています)。トータルでみると支払われるべき賃金が労働者に支払われているからです。
この点について、最高裁判例は「過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合」に過払賃金を控除することを認めています。
遅刻・欠勤の場合に減額されるのは?
また、労働者が遅刻したり、欠勤したりした場合にその分賃金が減らされることは問題ありません。遅刻や欠勤による労務不提供の場合、遅刻・欠勤した分についてはそもそも賃金債権が発生していないからです(ノーワーク・ノーペイの原則)。
ただし、遅刻・欠勤したことで減らすことが許されているのは遅刻・欠勤した労働時間分だけであることに注意しましょう。
遅刻・欠勤したことのペナルティ(罰金)として、働かなかった時間分以上に控除することは許されません(就業規則において「減給」という懲戒処分が定められている場合には、懲戒処分として労働基準法91条に反しない限りで控除することは可能です。しかし、1、2回の遅刻で減給という懲戒処分を下すことは難しいでしょう)。
余談ですが、キャバクラ等のいわゆる水商売と呼ばれる業種においては、遅刻・欠勤したことによるペナルティとして相当な金額を賃金から控除することが頻繁に行われているようですが、これは明らかに違法です。
以上、「違法な天引き」を見抜くために法律的におさえておくべきポイントをいくつかまとめてみました。予めこのような知識を蓄えておいて、せっかく与えた自分の労働力が無駄にならないよう、気をつけていきましょう。
*著者:弁護士 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
※この記事は2014年4月に公開したものを再編集したものです。
元記事:うわっ…私の初任給安すぎ!?「違法な天引き」を見抜こう
(記事提供/シェアしたくなる法律相談所)