100年に一度の金融危機後の長いデフレから、過去最大規模の金融緩和、そして日本の金融史上初のマイナス金利の導入と、投資家を取り巻く状況は目まぐるしく変化しています。

海外でも、遅々として進まないアメリカの利上げやイギリスのEU離脱など不透明な要素が多く、自らの資産をどう運用していけばよいか悩む個人投資家は多いでしょう。

日本の金融工学の第一線で研究を続ける京都大学大学院の加藤康之教授に、個人投資家が身につけるべきスキルと資産運用の今と未来について語っていただきました。


加藤氏: 世界の金融市場では今、4つの新しい潮流が生まれています。個人の資産運用においても、過去の常識がそのままでは通用しなくなっている面もみられます。マーケットで起きている4つの新しい流れと、これに対して個人投資家がどのように行動していくべきかを解説していきます。

1.資産運用は「精緻化」が求められている

今、世界経済は低成長とマイナス金利という問題に直面しています。先進国はもちろん、かつては飛躍的に成長していた新興国もその勢いを失い、世界中が低成長と低金利にあえいでいます。マイナス金利は日本だけでなくヨーロッパでも導入されているほか、名目上にはプラスでも実質的にはマイナス状態になっている国もあります。

昔なら株を買っておけば、そのうち上昇して利益が出るのが当たり前でした。しかし今では、そう簡単にはいきません。株よりも期待リターンが低い債券にいたっては手数料負けしてしまう例も出てきています。「マーケットのリスクをとればリターンが得られる」という単純な図式では利益を上げることが難しくなっており、資産運用を成功させるにはより精緻な運用が必要になってきています。

この精緻化とは具体的にどのような方法が考えられるでしょうか。そのひとつがグローバルマルチアセット運用です。これまでは日本株、外国株、日本債券、外国債券という4つの主要資産に分散投資しておけば、ある程度の運用利回りが期待できましたが、いまの金融市場でより高い利回りを求めるならもっと多くの資産クラスを加えていく必要があります。

株式や債券の中で細分化して分散したり、不動産や商品などの別の資産クラスを加え、ポートフォリオの中身を多様化し、緻密に構成していくのです。そのためのツールとしては、投資対象が豊富なETFが圧倒的に優れています。ETFをうまく活用することで、複雑なポートフォリオも簡単に構成できます。

とはいえ、基本の4資産分散が古い、と言いたいわけではありません。これが投資の基本であることは変わりなく、危険な集中投資をする人が単純な4資産分散ができればポートフォリオは格段に安定します。

ただ、これがプロの立場から見てベストかといえば、そうとは言えなくなってきているということです。さまざまな資産クラスをプラスしながら、ポートフォリオを精緻にデザインすることで、期待リターンを維持することが可能にになるのです。

精緻化のもうひとつの方法として、スマートベータというアプローチがあります。伝統的なパッシブ運用は、日本株ならTOPIX、外国株ならMSCIコクサイといった主要な指数に連動する運用をしていれば、市場リスクをとる見返りとして市場全体の成長の恩恵を受けられるという考え方ですが、世界経済が低成長にある今は、やはり得られるリターンが小さくなってきています。リターンはリスクと常に背中合わせで、リスクをとることで利益を狙えるわけですが、今後は別のリスクもとることで、他のリターンを合わせて取りに行くことが求められます。

たとえば、2014年にJPX日経インデックス400という新しい指数が登場しました。いかに効率的な経営をしているかを示す指標である「ROE」が高い企業群でつくる指数です。東証の全銘柄を対象にしたTOPIXで市場全体の成長を取りに行くのではなく、投資するにふさわしい企業を一定の条件で抽出して、指標化するのがスマートベータの考え方です。

企業を選別すること自体がリスクであり、コストも必要になりますが、低成長のマーケットでは取れる可能性のあるリターンを積極的に取りに行くことで、収益を狙っていくことが求められています。特定の属性を持つ企業を抽出するスマートベータによる運用は、今後注目を集める投資アプローチになると考えられます。