はじめに
米銀の2018年4~6月決算発表がスタートしました。一般的に、銀行は金利上昇で儲かるセクター。ならば、米国の銀行はFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げを続けることで、わが世の春を謳歌していそうです。
ところが、銀行株のパフォーマンスはイマイチです。これはなぜでしょうか。
米銀の株価が出遅れているワケ
まず、米銀の株価の値動きを見てみましょう。下図の通り、足元でやや持ち直していますが、5月以降の株価は総合指数(S&P500)に対して出遅れています。
最大の要因は、長短金利差、いわゆるイールドギャップが縮小していることです。これがさらに進んで、長短金利が逆転する「逆イールド」が発生すると、景気後退のシグナルといわれます。
現在、利回り差は2007年以来となる0.3%まで低下しています(下図)。この勢いが続けば、年末から年初にかけて、早くも逆イールドが発生する可能性があります。
長短金利差は、将来の経済成長期待などを反映しています。それがほとんどなくなるか、マイナスになるということは、市場が景気後退を先読みしているということを表しています。
改めて収益の強さを示した4~6月期決算
そうした景気後退懸念の中で発表された米銀決算ですが、予想を上回る利益で、強さを改めて示したものとして注目されます。
7月13日に発表したJPモルガンチェースは、純利益が前年同期比18%増加しました。貸出が同7%増と、引き続きGDP(国内総生産)の伸びを凌駕しています。同じ日に発表されたシティグループの決算も純利益が前年比16%増加し、貸出も5%増と強い内容でした。
貸出の増加は、その後の本業収益を支えるので特に重要です。これらの結果を受けて、株価は3~4%上昇しました。
では、銀行株は今後どうなるのでしょうか。
銀行業務は景気に左右されやすいので、逆イールドが発生すれば、再び景気後退懸念が高まり、銀行株の下押し要因となるでしょう。しかし、実際に景気が後退するのは、逆イールドが発生してから1年~1年半程度経った後であり、まだ相当時間があります。今の時点でこれを織り込むのはやや気が早いでしょう。
金利上昇に伴う新興国の景気減速懸念も、国際的な業務を行う大手米銀には懸念材料です。ただ、今回の利上げ局面で弱い動きを見せているのは、アルゼンチンやトルコなど、まだ限定的。海外業務に強みを持つシティグループなどにはやや慎重にみる必要があるかもしれませんが、その他の米銀については、高リスク国への貸出収益の全体に占める割合は大きくありません。
米銀株のプラス面は他にも
米銀株の良いところは、貿易問題にあまり影響を受けない点です。今のところ、中国も米銀の同国内での活動などを制限するような動きは見られません。
最近、政府が銀行規制緩和の方向に動き出したこともプラスです。具体的には、今年に入り、厳格な規制を受ける大手行の範囲を狭めたり、自己勘定取引などを禁じる「ボルカー・ルール」の見直しを始めています。
さらに、先月発表になったFRBの「包括資本テスト(CCAR)」では、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが株主還元を据え置いたものの、それ以外の4大銀行はそろって前年よりも増やしました(下図)。
今後12ヵ月の4大銀行の合計還元額は1,100億ドル(12兆円)と、過去最大となっています。それだけ還元しても、各行の自己資本比率は上昇傾向にあることから、今後もまだ還元強化の余地があると思われます。
これらの点から、米国株投資の中では、銀行は優先したいセクターの1つと考えられるでしょう。
(文:マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻奈那)