はじめに
米6月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、年内4回の利上げ見通し(従来は年内3回)が示されて以降、ドル円は堅調に推移し、一時1ドル113円台まで上昇しました。
しかし、7月19~20日にトランプ米大統領が米FRB(連邦準備理事会)の金融政策に口先介入し、米国の利上げ軌道を牽制したことや、日本国内では日銀がイールド・カーブ・コントロールを微調整との観測報道が飛び交ったことで、一時1ドル110円台半ばまで下落しています。
様々な投機要因に振り回された7月のドル円相場ですが、8月3日(金)に発表された米7月雇用統計は極めて強い結果となりました。今後のドル円ゾーンは?雇用統計の内容から確認していきましょう。
米7月雇用統計は極めて強い内容
8月3日(金)に発表された米7月雇用統計は、引き続き極めて強い内容となりました。非農業部門就業者数は前月比+157千人と、事前予想中心値+193千人より弱かったものの、5~6月分が合わせて59千人の上方修正となりました。直近3ヶ月平均では、毎月+224.3千人と、極めて強い内容と言えるでしょう(下図)。
為替相場というものは、絶対的な強さよりも事前予想との対比で動いてしまう傾向があります。米7月雇用統計発表後、一時ドル円は111円台半ばから111円台前半まで下落しました。これは雇用統計後に発表された米7月ISM非製造業景況指数の悪化(予想平均値58.6に対して55.7、前月59.1)も影響したものと思われます。
ちなみに、筆者の非農業部門就業者数予想は前月比+100千人前後でした。このところの米失業保険継続受給者数の上昇を警戒して、低めの予想をしていました。
「熟練工」不足が懸念材料?
米ISM製造業指数やHIS Markit PMI(購買担当者指数)では、さまざまな企業から「採用したくても採用に値する人材が確保できない」とのアンケート結果が出ています(下図)。今後の米非農業部門就業者数は、「採用に値する人材」の不足、「熟練工」の不足を理由に、予想に満たない可能性が多くなるかもしれません。
最も注目されていたと思われる平均時給は、前月比+0.3%(予想+0.3%)、前年比+2.7%(+2.7%)と、事前予想中心値と一致したことで、材料視されませんでした(下図)。ただし、前年比の下三桁ベースで見ると、ここ2ヶ月は低下傾向です(5月+2.785%、6月+2.741%、7月+2.695%)。
「秋口1ドル115~120円ゾーン」見通しを堅持
7月31日(火)に発表された日銀金融政策決定会合の結果を受けて、日銀は当面金融緩和政策を維持するとの見方が強まり、日銀要因による円高圧力はなくなりました。
米国ファンダメンタルズの堅調さは確認できましたが、今後もトランプ米大統領の口先介入・恫喝・Twitterにより、為替市場が振らされる可能性は高いでしょう。
筆者は秋口に1ドル115~120円ゾーンへの円安ドル高を予想してきましたが、引き続きその予想を堅持しています。「投機に飽きたらファンダメンタルズ」との方針続行と考えています。
(文:大和証券 チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄)