神奈川県相模原市緑区の藤野地区にある、予約だけで売り切れてしまう人気のパン屋さん「ス・マートパン」。前半では、それまでまったく別の仕事をしていた移住者のオーナー・池辺澄さんが、「ス・マートパン」を立ち上げるまでのストーリーを紹介しました。

お店を立ち上げる後押しをしてくれたもののひとつに、澄さんの夫・潤一さんが立ち上げた藤野地域通貨「よろづ屋」の存在があったといいます。

何がふつうのお金とちがうのでしょうか? 「よろづ屋」の仕組みを解説しつつ、円とは異なる「地域通貨」の役割に迫ります。


自分で取引の額を決める? 円とはまったく異なる通貨

藤野地域通貨「よろづ屋」は、500人ほどが利用登録しており、「ス・マートパン」をはじめ、支払いの一部に利用できるお店もあります。

地域通貨には、大きく分けて、紙幣型・小切手型・通帳型がありますが、「よろづ屋」は通帳型に属します。事務局が発行した通帳に、取引の内容と「よろづ屋」の残高を記録していくというシステムです。また、この通貨は円とはまったく異なる価値を持つため、円の「代わり」としては使えません。

使い方は、まず、月に1回行われる説明会で趣旨と使い方の説明を受けたうえで、メーリングリストに登録。そして、お願いしたい・譲ります・探していますといった希望する取引内容と連絡先をメーリングリストに流して、取引相手を探します。

たとえば、「○月×日から△日まで、旅行中植木に水をやってくれる方いませんか? 1000萬(よろづ)で」などと流して、手を上げてくれる人を探す。(萬は「よろづ屋」の単位)

現れたら個人同士のやりとりに移行し、お互いの通帳に、取引内容と残高額(頼んだ方がマイナス1000萬、頼まれたほうにプラス1000萬)を書き込み、サインをすれば成立。

逆に、「整体の練習をしたいのですが、モニターになってくれませんか? 500萬から」などと技術を提供するのもあり。もちろん、「子供服を譲ります」「冷蔵庫を探しています」といった物の取引にも使えます。

この時、やりとりの額を自分たちで決めるのが「よろづ屋」の特徴です。

「残高マイナス」がOKってどういうこと?

「よろづ屋」は円とまったく異なる価値を持つと書きましたが、面白いのは「残高マイナスがOK」という点です。一般的な感覚では、残高がプラスでないと使えないと思ってしまいますが、「よろづ屋」は違います。

電子マネーのように、加入の時点で円をチャージするような仕組みではないので、スタートは残高0から」※1。「よろづ屋」を使ってみようとすると、だいたいの人はマイナスから始まるのです。

「みなさん最初は戸惑うのですが、マイナスがつくということは、地域の誰かの生かされていないスキルを発見するとか、そのままではゴミになってしまうものに価値を見出すということです。なので、むしろ積極的にマイナスを作ってくださいと、最初の説明会では力を入れて説明しています」(潤一さん)

たとえば、いらなくなったランドセルが誰かにとっては価値のあるもになったり、プロではないけれど得意な料理やヘアカットのスキルが人の手助けになったり、求められていることに気がつかなければそのまま埋もれてしまう地域の「資源」に、その声を届け、活かしやすくする仕組みが「よろづ屋」なのです。